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14歳の栞のドントのレビュー・感想・評価

14歳の栞(2021年製作の映画)
4.4
 2021年。超いい映画でした。いやはや、まいっちゃうね! 某中学の2年生クラス、3学期最後の50日に密着しつつ、35人の生徒の「いま」と「人生」を見つめるドキュメンタリー。
「生徒たちはこれからも生きていくので、これを観た人はインターネットとかで生徒個人への誹謗中傷とか非難とかやらないでください」という旨の文章が頭と終わりに出る。それゆえソフト化も配信も今のところ全く未定。まず制作側はそういう配慮をきちんとしていることを書いておく。
 とは言え出てくる35人の生徒たちは一応「大人」であるところの私から見ても大変しっかりしている。いや中学生なりのワイワイガヤガヤとかおふざけ、部活への熱中とかはもちろんあるけど、個人へのインタビューシーンではそれはもういろんなことをちゃんと考えており、静かに語る。ちなみに終業式で泣くのは先生だけである。
 ワイワイガヤガヤとかおふざけ、部活なんかをしつつもそれらは一過性の熱であることを彼らはよくわかっている。「今やってる部活を職業に? いやぁムリですねぇ」とか「明るく振る舞った方がいいのかなぁ、って思って、そうしてます」などと言う。色恋もあって、なんというか丁寧だ。もうちょいガムシャラでもよいのでは、と感じちゃうほどに冷静で現実的で、中2の頃は動物に近かった私としては「えらいもんだなぁ」と感心するばかりだった。
 せやったら本作、クールで平坦なのかと言えば全くそんなことはない。35人にはそれぞれに家があり、生活があり、思いがあり、そして同じクラスにいるのだ。共鳴もあれば摩擦もあり、深くはないが好悪の感情もある。そういうものが群像劇の如く繋がり離れ響き合い、大きなタペストリーとして織り上がっていく。
「人」の映画なんですよね。いろんな人がいて、いろんな感情と関係がある。よくなかったこと、気にかかることもあるけれど、敵味方・白黒で簡単に割り切れるものはそうそうない。それが世の中。当たり前のこととは言え、改めてこういう形で語られるとしみじみと頷く。中学生に教えられてどうすんだ、というご意見はごもっともですが……
 朝・昼・夕暮れ・夜を切り取るカメラや、35人をピシパシ切り出していく編集も小気味良く、「青春!」「十代の輝き!」みたいなわかりやすいエモに振らない手つきにも大変に好感を持った。べっと剥がして貼っていく。時折重なる部分がある。わかりやすいお話に落としこまず、複雑さを保持したまま、ひとつのクラスと子供たちを切り取らんとしている。
 他方、音楽が多すぎる。生徒と生活だけで十二分に雄弁でいい感じなので、音楽なんかほとんど要らなかったのではと思う。あと冒頭のおうまさんとどうぶつのシーン、これも要らないのではないか。テーマを頭で語らないと物見湯山、見世物に思われるし、そうなると出てくれた生徒にもよくないと考えたのかもしれませんが……
 とまれ、十人十色ならぬ三十五人三十五色の、カラフルで重みのあるドキュメンタリーであった。35人+αのこれからの人生に幸あれ。みんな幸あれ。「これはあれですね、いわゆるチンチンですね!」は今年のベスト台詞候補です。
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