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Arc アークのマチのレビュー・感想・評価

Arc アーク(2021年製作の映画)
3.9
舞台装置の至るところにメタファーを散りばめ、圧倒的な画の説得力で語られる女性の一代記。

不老不死を得た彼女は、生まれ変わって再びめぐり逢うことのできない、ある意味永遠に続く「別れ」を生きなければならない。一方、自由でありたい息子は、母とは別の方舟を選び沖へ行ってしまう…


と、ここで止めておけば良かったのに、ラストの砂浜のシーンである程度解説してしまっていたのが少し残念。あの着地は余計だったのでは。
ワイヤーに囲まれた枯れた花のカットからリナの生きる世界は感じられるし、前半のエマの思想と後半の不老不死が当たり前な世界との対比から作品のテーマは十分に伝わる。
個人的にはもう少しだけ観客を信じて語り終えてほしい気がした。

それと、完全に好みの問題ではあるが、序盤からもっと感情を排した筋運びの方がよかった気がする。所々にキャラクターの行動原理の読みに迷いが生じ、挿話を切り貼りした印象がノイズになっていた。どうせならはじめから全体的にソリッドな演出脚本にすれば、より映像から伝わる質感でストーリーを追えていけたのではないかと思った。
特に後半のモノクロ部分は勅使河原宏作品や吉田喜重作品のようでカッコ良かったからこそ余計そのように感じた。


見た目は変わらないまま年齢を重ねる芳根京子さんの演技は女優賞クラス。
そもそも石川慶監督は秀逸な映像作家であることは間違いないが、役者の演技指導も見事な手腕を発揮する。
過去作『愚行録』、『蜜蜂と遠雷』はともに主演から脇までがベストアクト級の演技を披露。
本作は脇に演技スタイルが固まっているベテラン勢が少し多いため、全体の迫力は前二作と比べて落ち着いているようにも見えたが、芳根京子さんは難しい役どころをスマートにこなし、作品の持つアート性に貢献している。


少し文句もあったけど、作品全体としてはとても胸にせまるもので、石川慶監督が今後も駄作を作れない作家であることが再確認できた。
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