"生まれた所や皮膚や目の色で
いったいこの僕の何がわかるというのだろう"
ふと、THE BLUE HEARTSの「青空」の歌詞が頭をよぎった。
当時、白人のフリをする黒人がいたなんて。自分の肌の色や出自を隠さないといけないなんて。悲し過ぎる。
舞台は1920年代のニューヨーク、ハーレム地区。医師の夫や子供達と暮らす裕福な黒人女性アイリーン(テッサ・トンプソン)は、旧友クレア(ルース・ネッガ)と偶然再会する。肌の白いクレアは自分が黒人である事を隠し、白人男性と結婚していた。そんなクレアの登場で平穏だったアイリーンの日常に変化が訪れる—— 。
白と黒。
モノクロで描かれる事に意味がある。
白人に成りすます。
俄かに信じ難い現実。
冒頭から、テッサ・トンプソンの細かな目の動きやこわばった表情による、繊細な演技に魅了される。
共に白人のフリができるものの、クレアは白人として、アイリーンは黒人として生きる事を選んだ2人の黒人女性の葛藤を描いたヒューマンドラマ。
全編ピアノのみが流れるBGM。
派手さはないが、小さな針の穴に細い糸を通す様な緊張感が絶え間なく続く。
明るく奔放で、台風の目の様に周りを巻き込んでいくクレア。好奇と嫌悪の的となる彼女に、知らず知らずの内に心を掻き乱されていくアイリーン。
奔放な彼女への嫉妬か、
はたまた白人としての生活を送る彼女への羨望か。
心の微かな揺らぎを見事な表現力で紡いでいくテッサ。
肌の色を偽る事でクレアが享受する幸せの蜜の味はどんなに甘いのだろう。そして、それがバレたとしたら…?
超絶イケメン一族スカルスガルド家の長男アレクサンダーが、クレアの夫を絶妙な胸糞悪さで演じているのも印象的。
白い肌を利用して、黒人社会と白人社会のボーダーラインを越境する女性達。逆を言えば、黒人の血が少しでも混じっている事で、皆一様に差別の対象とされてしまう現実の恐ろしさ。
劇中取り上げられる事もなかったが、裕福なアイリーンが同じ黒人女性をメイドとして雇っている事も、何とも言えぬ違和感を心に残した。
水面に投じた一石が
観ている者に小さな波紋を広げていく。
心のひだに伝わる、その小さな波紋を静かに噛み締める、そんな作品。