ちろる

PASSING -白い黒人-のちろるのレビュー・感想・評価

PASSING -白い黒人-(2021年製作の映画)
3.7
白人のふりをして街中で買い物をしている時、同じく白人のふりして生きるクレアと再会した。
比較的肌が白く、白人の養父母に育てられて白人の旦那と暮らす彼女は、完全に白人として生活をしていた。

彼女は幸せそうな妻の仮面を被りながら、どこかで解放を求めていた。
私の人生はどこから間違ったの?そう言わんばかりにその仮面で笑う顔は多幸感に満ちていて、旦那の差別的言葉も気にならないようだった。

アイリーンは日中はほんの遊び心で白人のような素振りでお店に入ったりするが、家に帰れば普通に黒人の旦那と黒人らしい生活をするが、クレアは夫を騙して完全に白人として生活をする。
白人になりすます2人の黒人女性のまったく別の私生活。

これを中間を許さないモノクロで映すというのもある意味皮肉である。

この作品で思い出さずにいられないのはジョン・カサヴェテスの名作『アメリカの影』。
あちらは、混血ゆえに肌の色素の薄い黒人女性が、白人男性たちに勝手に白人だと思われ、言い寄られ、葛藤したヒロインレリアが黒い肌を兄たちを恋人に紹介することで起こる残酷な結末を描いているが、このレリアはアイリーンやクレアともまた異なり肌の白さゆえに白人にばかり言い寄られてしまうという悲劇があった。
そしてレリアに起こることがクレアにもまた起こるのである。
そしてクレアは結婚までして騙していただけに悲劇的である。

人種差別されることを避けるために白人になりきるアイリーンも、白人の男に愛されたかったクレアも人種差別ということがこの世界になければ何のことはない。
白人が勝手に作り出した法律と、善と悪が決まり、白人の決めた秩序で責められる。
淡々と見せているが、ここで描かれるのもまた、間違いなく『アメリカの影』である。
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