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邪魔者は殺せのニューランドのレビュー・感想・評価

邪魔者は殺せ(1947年製作の映画)
3.7
☑️『邪魔者は殺せ』及び『眠りの館』 ▶️▶️
新年最初に見ようと思った映画が二本とも満杯で入れず、進路変更。40年以上ぶりに観たが、最も好きなリード作品の1本だけに、やはり流石と納得せざるを得ない。これが映画なんだよなぁ、と世相の荒々しさと・映画特有の滑らかな筆致の両方を満たした名人芸。契機も進行も末路もあまりIRAの特殊性に突っ込んでるわけでもなく、それでなくても展開に必然的リアリティーはない。意志と身体の衰弱したリーダーの主人公も・組織結束的にも・囲む様々な私欲や世界観や特異な立場にひたった人物像たちも、かなり間抜けで見栄え本位の寓意性に充ちている。それを、ひたすらパセティックな理想の着実なリアリズムを構築して描いていってる。主観歪みやスピード描写やとことん宗教的受難の姿も取り込んで、美学・心情的にあるべき構図・動き・対応・影と光のリードするショットらの寄り合わせ。そして、これらが自然もコントロール・ウーンと後景の列車や船までかなりデカいミニチュアで現す、ロンドンの街角・公園の巨大広大セットを自在荘重活用・一体化させて描かれてゆくのだ。以前は、この舞台が、ここまで巨大な人工物とは気づかなかった。汚れめ・逼迫世界を描いてもこれが映画の世界であり、リードは代表的エリートであった。『白夜』『天井桟敷ー』までいかずとも、戦後数年でA級はここまでできたのだ、映画とは皆が一体となって感傷に浸る甘いと同時に自己恢復の世界だったのだ。特定の政治立場に立たぬ万人向けのオープンな描写。O・ウェルズのシーンがあまりに凄く魅惑的・圧倒的な(しかし、その他はチャラチャラ・テクニック過剰な)『第三の男』に比べても、ベースのタッチはより着実だと思う。
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そして一方で、ある意味現実の歪みを教えてくれるのが、B級のある種、怒りと諦感を剥き出しにした作品群。このひとつ前に観た『眠りの館』は、当時は気にならなかったろうも、(オプチカル)合成に限って顕著な画面経年劣化で、いまやセットの背景・外景は白く粗くなってしまってるが、話の展開も当初からバレバレ。その分、悪意や直情や自己本位ノリが、意地汚くも確かな手応えで、動き絡みまくり、暗躍と見破りが愚弄しあう。そして、限定も高度セット美を活かしまくり、前後・横や上へ・そして見上ぐ低さに固執の、鋭いカメラワーク、正確とフィット使い分けカッティングは、列車や階段や窓際と囲む空間造形に対し、おそろしく美だけに貢献する、堅固で刺してもくる構図(ローからの極端な真仰角と見まごうばかりの)を随所に実現、それを甘い観客の喉元に突きつけてくるのだ。
長期的に見れば、共に戦前からのヨーロッパ起点の人気監督も、この時点ではリードが明らかに時代の寵児だが、最終的なキャリア・到達点の差異が相当にというか、別次元となるは、既にその下地が見えてきてる(『文化果つるところ』『文なし横丁の人々』あたりまではともかく、リードは毒にも薬にもならない『オリバー!』『フォロー・ミー』でキャリアを終えるのだ。サークの頂点を極めた直後の引退については敢えて触れるまでもないくらいにいまや伝説化してる。)。
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