Omizu

Hive(原題)のOmizuのレビュー・感想・評価

Hive(原題)(2021年製作の映画)
5.0
【第94回アカデミー賞 国際長編映画賞ショートリスト選出】
実在の女性事業家を主人公にしたコソボの作品。サンダンス映画祭ワールドシネマ部門グランプリ、監督賞、観客賞の3冠を達成。ワルシャワ映画祭やダブリン映画祭など世界各国の映画祭を制した。アカデミー賞ではコソボ代表として出品され最終選考まで残った。

コソボ紛争により夫を亡くした女性たちが自立できるように、アイバルと呼ばれる唐辛子を使った調味料のブランド「KB Krusha」を立ち上げたファリェ・ホチ(Fahrije Hoti)氏は今もその事業を継続中。ヨーロッパ諸国に輸出し、アメリカ進出も検討しているそうだ。

まず主人公ファリェが蜂蜜をとっているシーンからはじまる。タイトルの『Hive』は巣箱という意味だ。これがラストシーンで繰り返される。しかし最初と最後で印象は全く違う。この巣箱はいなくなった夫の生業だった。彼女は巣箱を通して夫を見ている。

コソボの超男尊女卑社会がまず強烈。事業を立ち上げることはおろか、車を運転することすら女性にはタブーとされる。彼女は男たちに石を投げられ、女たちにも「イカれ女」となじられる。

それでも彼女は前に進もうとする。主人公を演じた俳優さんが魅力的だ。常に強く正しいのではなく、瞳の中に弱さがある。それが観客の共感を誘う。

他の方も仰っているが、この映画の素晴らしいのはファリェが前に進むだけでなく、行方不明の夫のことも決して蔑ろにしているわけではないと描写することだ。彼女は巣箱と向き合い、ビデオ映像で夫の姿を探し、クローゼットにある夫のジャケットを撫でる。

ファリェを共感もでき、そして尊敬もできる人物として描き出すことに成功している。女性たちの連帯を描きつつ、夫への想いも忘れない。

そして映像的カタルシスも忘れていない。コソボの村を捉えた日差しの美しさ、唐辛子の赤が印象的な色彩、幻想シーンの残酷さと印象深い。

コソボは昨年の東京国際映画祭グランプリ『ヴェラは海の夢を見る』といい傑作を連発しているイメージ。共同製作の北マケドニアも『ハニーランド 永遠の谷』『ペトルーニャに祝福を』と絶好調であり、両国が台頭する日は近いのではないか。
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