Aya

モンタナの目撃者のAyaのレビュー・感想・評価

モンタナの目撃者(2021年製作の映画)
3.8
#twcn

ハンカチは涙を拭くためのモノではなく張り裂けんばかりの唸り声を抑えるためのモノ。

スクリーンに映るすべてに恐怖し安堵し絶望しては救われ、ずっと声を抑えながら涙を流し過呼吸気味になってました。

いや、なんかちょっと凄いわぁ。
タイトルが凄い。

"Those who wish me die"

結局今もちゃんと言えない日本語タイトルとなんか暗いポスターの下の方の隠れがちな"テイラー・シェリダン"というクレジットを見つけてすぐ様足を運んだらこの有様。

分かってらっしゃるというか観る人を選ぶというか。
とにかくちょっとハシゴとか無理だわぁコレ。

信頼のブランドですね。

前作"ウィンド・リバー"では雪深い先住民居住区。
その前の"ボーダー・ライン2"では乾いたメキシコの抗争地帯。
そして今度はモンタナ、イエローストーンの森林地帯。

なにか"不可分"な地域を選びがち。
枯渇した地に暮らす人に満足感が乏しく今尚何かを求めている人が多い。
一方、他者からの視点は関係なく自身を理解し順応する人もいる。

そして迂闊に目的ある他者が入り込み好き勝手しがち。

主演のアンジョリーナ・ジョリーに引きがあるのかちょっとよく分からないのですが、無鉄砲な性格ながら大好きな仕事で負ったPTSDに苦しむ弱い面と"正しいこと“を当たり前に選択する強い意志が共存しているのがとてもいい。

アクションのジャンプ力や予期せぬ自然ハプニングの時、"細身"な体型も役にあってると思う。

そしてなんと言っても、このハンナというキャラクターは女性の公僕。
母性と女性性を排して人間味と個性で成立している。

非常に手管。
同じ女性としてこのような主人公が活躍してカッコいいのめっちゃ嬉しい。

凄くテイラー・シェリダンぽいと思ったのはやっぱり銃声と装填の音ですよね。

人の声よりも大きく細かいLMGの連射。一弾づつ丁寧に銃身を抜ける音が聞こえる。

そして装填の手際の良さ悪さが教室の先生の傷つける気のないライフルと殺す気しかないプロの使用するマシンガンでは断然違う。

そんな手際のいい憲兵上がりと思しきボーッとしたホルトくんと組織上がりの雇われリーダーエイダン・ギレンの殺し屋2人組。

パンフレットのエイダンのコメントが印象的だったので一部

「僕は無駄のない引き締まった物語に出演したい。そして映画のビジュアルに貢献したい」

とな。
ほう。この映画内でドチャクソ手際良く且つ淡々と"作業"をこなす殺し屋の1人がこのような考えで演じているのはとても興味深いですね。
映画の意図が明確に伝わっている。

それほどこの映画内での殺し屋のビジュアルは完璧なんです。
しかもボスがタイラー・ペリーなんです!!!
色々凄いよ・・・ほんとに理解する人を選ぶよw

対するジョン・バーンサル!演じる田舎のシェリフ(わざわざ副保安官て書いてあるの凄い)は山小屋で妊娠6ヶ月の妻と幸せな日々を過ごしている。

妻アリソンを演じるのはハーバードとジュリアーニを卒業、NYで弁理士として働いた異色の経歴を持つメディナ・センゴア。

このキャラクターがなんといってもすごい!

そんな最強にカッコいい登場人物たちが争うのは一人の少年。
彼はある秘密を亡くなった父親から託された。
信頼する人に渡せ、と。

その秘密はこの映画を見ている我々が知る由もないが何人もの人々の命を奪ってでも隠したい内容であることはわかる。

そんなドチャクソ荷が重いものを持った少年コナー。
彼は、目の前で、お父さんが撃ち殺されてるんですね!!

そこから全くわからない森に放り出されて「川を伝えば町に出る」程度の知識で手ぶらで放り出されるんですよ!

もうちょっと100ヤード、左、小川、とか言ってくれませんかw

このコナー少年を仕事の為に消そうとする殺し屋。
もうほんっと!手際よく迫ってくる2人から偶然出会った消防士のアンジーが助けます。

なぜか?

え、消防士だもん。
自分の危険も顧みずに自然や他人を救う仕事の人だもん。
そりゃ救うに決まってるじゃん!

でもね、彼女も傷を負っている。
少しやけっぱちですよね。長い距離歩く装備してなかったり、ロープでついた手のやけどをナイフで削ったり。
挙句・・・自然の驚異をここまで自然にしかもなんかゲームっぽく入れてくるとは・・・くっ!また涙が!

同じ理由でコナーの伯父さんにあたるジョン・バーンサル幸せな家庭もびっくりするほどナチュラルに襲われます。

そこで本領を発揮するアリソン!!

めちゃくちゃカッコいいよね!!
だってさ!
怪しいやつが来たと思ったらすかさず手にするアレとか、乗り物ねえと思ったらすかさず手にするソレとか、いつ何時誰に対しても怯むことなき無敵の妊婦!!

いやホルトくんとエイダンの2人のプロ中のプロ殺し屋と対峙してアレに説得力が出るなんて凄すぎだよ・・・胸アツ過ぎて(T_T)
このアリソンというキャラクターがひょっとしてこの映画で一番強いのでは?

しかもジョン・バーンサルもなんだかんだ・・・うぅ。

ホルトくん・・・もうパパになって幾何??
相変わらずの抜け感をうまく演じてらして安定した長身のボンクラ佇まいが素晴らしい。

結局さあ、何が正しい正しくないって人によって違って・・・たりはしない!んですよ。

人殺し ⇒ 悪い
子ども ⇒ 助ける

こんな単純なことを大人ができない世の中で、このようなことに巻き込まれてしまったからこんなに哀しくもカッコいいドラマが生まれてしまい・・・うぅ・・・エモい・・・いや映画自体は非常にスタイリッシュだからエモいのは私の胸ですはい。

もうほんとに徹頭徹尾怖くて苦しかった。
ずっと叫びたかったし、涙を拭きたかったしだれかに助けてほしかった。
観終わっても苦しくてシャン・チー予約してなかったら帰ってたくらい重い一撃。

期待通り。

ゴミクソみたいな日本語タイトルですがパンフレットはめちゃくちゃいいです。
過去作も含めてアメリカ地図とかまで載ってるので、テイラー・シェリダンを追っている方はマストバイオアダイです。
松竹の事業推進部の皆様へ感謝を。

監督インタビューで今作を

「法の支配が自然の法則に道を譲る境界線」

というなんたる秀逸な表現の仕方をしてるのか・・・日本語の選び方もちょっとどうかと思うほどイケてるし!!

全部の文章が素晴らしいと思います。
日本にしかない映画パンフレット文化、一から作るの大変だろうに本といい仕事されてますよ全く!
1回しか読まないけど800円安い!!

彼の炎、火に対する考え方も好きだなあ。

私は炎の脅威すらあの2人の殺し屋が元凶だから、非常に憤りを感じていて「やはり勝てないのか」と悔しく思っていたのですが、きっかけは2人だったとして燃え広がる炎に意思はないとか言われると・・・目頭熱くなりましたね。


日本語字幕:松浦 美菜
Aya

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