ナミモト

偶然と想像のナミモトのレビュー・感想・評価

偶然と想像(2021年製作の映画)
4.8
これほどまで、噛み締められた台詞の、言葉のやりとり。
緊張感を持って、強度を持って、交わされる言葉の数々が、本当は際どいバランスの上にしか成り立つことはできない、真摯な言葉となって、こちらにぶつかってくるようでした。
そして、時々、ふふっと笑えるのも、絶妙なバランス。
本作は、全部で7話ある、短編の第一弾とのことですが、3話の時点での重みが凄いです。
3話すべてに通じるのは、たぶん、そう思っていたことが、そうではないことが途中から分かることから生じる(偶然)、すれ違いや変化。この変化が、これほどまでに、何か人の核心に触れてくる…もう、凄いとしか…。思っていたのと違った事や、それをきっかけとして変化してしまう心境や人との関係性を、拒絶する事なく、変化はあったものとして受け入れる事。それは、とても弱い存在を自分の中に見つけてしまう瞬間かもしれないですし、一方で、何か、強くなければならないと、自分に課してきた基準(いつのまにか内面化してしまった外部基準のようなもの)を一枚脱ぎ捨てる事かもしれない。そうして、脱ぎ捨てていって、最後に残ったものが弱い自己だけかというと、そうではなくて、そこに残るのは、変革した別の自己との邂逅であり得るのかもしれない、と。そんなことを考えました。
偶然を受け入れる事は強さであり、想像力を目一杯働かせなければ、不意に訪れた偶然を、必然だったと思えるまでには至れない、のでしょうね。
すれ違いがあるからこそ、ふふっと笑ってしまうのであって、ちょっと泣けてもしまうのでしょう。物語の核心というのでしょうか…。映画を観た後に、本当はきっと、もっと会話というものは、もっと大切にされるべきなのに、どうして私たちはそれを、大方の場合で、できない(あるいは、些細なズレの感覚から生じる違和感を、どうして突き詰めて考えられていないのだろう)のか…その事に涙が出てくるようでした。
個人的には、渋谷の文化村ル・シネマで見れてよかったです。第一話のラスト、ヒカリエの映る工事中の渋谷が良いですね。建設途中の工事現場というのは、未完成で、常に状況が変化していて、芽衣子のめくるめくように変わる心境と、その景色は重なったように感じました。
第二弾も、第三弾も、楽しみにしています。
ナミモト

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