脳みそ映画記録

偶然と想像の脳みそ映画記録のレビュー・感想・評価

偶然と想像(2021年製作の映画)
4.8
本当にめちゃくちゃ良かったです。
濱口竜介監督の手腕を思い知りました。

本作は偶然と想像をテーマにした短編作品集です。第一話「魔法(よりもっと不確か)」、第二話「扉は開けたままで」、第三話「もう一度
」の3作品。

まず、話の順番が最適解です。話数が進むにつれ偶然のベクトルが大きくなり、現実離れします。いきなり第三話から始まっていればきっと面食らう筈です。この順番であって抵抗なく受け入れられたと思います。

基本的には画面上に二人の登場人物が居て、その会話劇で構成されています。
会話が進むとともに近づく二人の座る位置などの位置関係が変化したり、カメラアングルが会話劇では普通撮らないようなショットがあったりと、視覚的にもおもしろい作りになっています。


パンフレットを読むと撮影の方法もかなり変わっているようで、同じシーンを何度も何度も撮るんですって。時には無感情に台詞を言わせたり、カメラのアングルを変えて撮ったりしたそうです。
第一話の視聴者に語りかけるようなショットや第二話の朗読と同じように無感情に繰り広げる会話などが印象的でした。
台詞に感情を乗せないことで、台詞そのものが強調されています。本作においては台詞の言葉選びが小説の一遍のようになっており、またハッと気付かされるような一言がポンと放り込まれています。台詞や会話自体の持っている力がとても大きいです。
思わず笑っちゃうようなやり取りもありましたね。

音楽についてはシューマンの音楽が情緒的に使われていて、作品の雰囲気と非常にマッチしています。
シューマンの音楽ってピアノが主旋律で穏やかな音階とリズムのリピート構造に基本的になってるので会話を邪魔しないが耳にはしっかりと残ります。


三話ともよかったのですが、特に第三話が良かったです。
なかなかに突拍子もないストーリーですが、一番ハッとさせられました。
「大きな不満もなくて客観的にみて幸せだと思う。幸せでないと言うと怒られると思う…うんぬん」とか「私にも何をしても埋まらない穴が同じように空いている」とか「何にだってなれたはずなのに少しずつ時間に殺されている気がする」とか。言葉にできなかったことを言語化して提示してくれました。

また、時折観返して心に閉まっておきたくなる作品でした。
第四話以降もあるみたいなので楽しみです。