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偶然と想像の010101010101010のレビュー・感想・評価

偶然と想像(2021年製作の映画)
3.5
「偶然と想像」、いいテーマだなぁと思う。
「偶然」は、人の人生を救いもするし、壊しもする。
そこまで大したことにならないことも多いのだろうが、とはいえ、それはいつだって予期せず訪れるものであり、「恩寵」にも「災厄」にもなりうるだろう。
また、そういった「偶然」を受けて、「もしかしたらこうなっていたかもしれない…」と、別の可能性を「想像」することも、日常の中で沢山ある。
それはたしかに「魔法よりも」かりそめのようなものかもしれない。
ただ、あなどれないのは、時に「想像」が現実に働きかけてくることだってあるということ。
どのようなカタチにせよ、「想像」が現実に滲み出て・溢れ出してくる時、それもまた、「恩寵」にも「災い」にもなることがある。
そしてそれは、人生を左右するものにもなるかもしれないし、ちょっとした、ささやかだけど温かいものが残るような体験にもなるかもしれない…、という、そういったことを描いた映画だと感じた。
オムニバス形式ということで、その数パターンの模様を見ることができる、贅沢な時間でもあるかもしれない。


個人的に、1話目はまったく面白くなかったのだが、3話目がめちゃくちゃ良かった。真逆の感想を覚えた方もいらっしゃるようで、濱口監督の凄さと言うほかない。
ちなみに2話目については、「5年後」になるまでは、ちょっとビックリするほど好きだったのだが、その後がサッパリで…、しかしこの「5年後」からが濱口節の本領発揮でもあるのだろうな。
そういう意味では、やっぱり濱口さんって人は、僕には、よく分からないところがあるなぁ…と。

シナリオと演出は、もう、めちゃくちゃ高度。ちょっとした仕草、距離感、会話、背景(音)、キャメラワークに、ゾクゾクっとする。

***
1話目。
初めてちゃんと話した人だけど、気づけば5〜6時間とか経っていて、お互い、仲いい人にも話したことがないようなことまで話しちゃっている…、というのは、自分も実体験として、ある。たしかにそれは、魔法のような時間だった。(こういう、それまで見ず知らずだった人に、誰にも話せなかった・自分でも忘れていたような想いを話すことになる、というのは、第3話にもつながる…)。
そして、彼女の「想像」、それもまた、分かる…。そしておそらく彼にも彼の、似たような「想像」がありえただろうなぁ、という気もする。
彼女はその(「魔法」よりも不確かな)「想像」を「想像」のままに捨て、再開発中のSHIBUYAを後にした。

2作目。
渋川〜!いいぞ〜!
思いがけず、女の人生を肯定する展開…、いや、自分で自分の価値を抱きしめよ、それがもしかするといずれ他の誰かを励ますことになる…、いや、なるかもしれないし、ならないかもしれないが、そうつとめる他ない…、この肯定の言葉(小津安二郎的カットバック)に、僕なんかはグッときてしまったのだが、「こんなもの撮るのは赤子の手をひねるようなもんだ」とでも言わんばかりの「5年後」の展開における、ちゃぶ台返し…!!

人の男(他人のもの)になる(なりそうな)ことが分かって、途端に気が変わるような女性の心理を描くの、濱口さんって、好きなのねぇ…(そこが1話目ともつながっているような…)。
とはいえ、非常に男性目線的でつくられているような気もしていて、その辺りの女という生き物の心理の不可解さ、よく分からなさの描き方が1作目と2作目の共通点かな、とも感じられたり…。
バスの中が、なんとなく昭和チックでした。

3話目。
まさかの人違い、赤の他人…。でも、だからこそ生まれる不思議な関係性…、不思議な「親密さ」…、
「演じて」いるうちに、打ち明けられなかった本音が出てくる…。その人の中の何かが、ゆっくりとほどけてゆく…。
最後、青い服の彼女は、「彼女にとっての」本心を(対象を間違ったままに)そのまま相手に伝えているんだと思う。その言葉が(対象を間違えているにも関わらず)相手にまっすぐ伝わり、そのままその人を肯定する言葉となり、その人の中の何かもまた、ほんの少しだけ(ずつ)ほどけてゆくのだった。
「想像」(演じること)にはじまり、それと「本当」との境目が分からなくなってゆき、「想像」を突き抜けて相手に届く…。それが本当によかった。
赤の他人だからこそ生まれた、かけがえのない時間…、そういう気がした。

ちなみに、「別れてから随分経つけれど、あの時のあなたの存在、あなたの言葉が、今でも私を支えてくれている…」というような挿話についてだけど、たぶん濱口氏にも、過去にそういう女性がいたんじゃないかなぁ…、とも思ったり…。これって、その人へのさりげないラヴレターだよね…、いや、分かりますよ…。