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偶然と想像のhoshのレビュー・感想・評価

偶然と想像(2021年製作の映画)
4.3
新文芸坐にて『LOVE LIFE』と2本立て。
「偶然」と「想像」をテーマとした3本のオムニバス映画。濱口竜介監督作品。

シンプルゆえの凄みを感じる。正直最初は物足りなく感じたのだけど、見終えた後の豊かな余韻が長くジワジワ染み入っていた。

全3話、どの人物も決して幸せな状態じゃない。どこか孤独や後悔を感じている。でもちょっとした対話と偶然が人生を塗り替えるような喜びを与えている。全部が全部ハッピーエンドの話ではない。けれども、どんな不幸があろうと、まるで「魔法のように感じられた」時間が一瞬でもあったことは事実である。という描き方に救われる。バキバキの映画理論や演出力がありながら、最後には普遍的で感情的な喜びを感じさせる濱口作品の姿勢が好み。日常に還元される楽しさがある。

以下は演出に関する気づき。

これまで鑑賞した濱口作品は『寝ても覚めても』の夕食→車→堤防の一連の流れや『ドライブ~』の公園の演技、見事な幕切れといった理屈を超越した凄まじいショットがあった。
しかし本作は基本フィックスのカメラ、人と人(基本2人)の会話のやり取りのみ。ルックもどこか白っぽく上述の2作ほど映画的な空気ではない。超ミニマム。その辺でパッと撮れそうと思わせるくらいの質素さ。これが先述した物足りなさの理由かなと。だが、逆にこのシンプル(のようにみえる)さで無限の人間の自由さ、人生の奥深さを感じ取ることが出来る本作は凄まじいのではないか…?と感じた。

これはやはり徹底して練られたセリフと言語への誠実さがあるからだと思う。
濱口監督の感情を抜いたテキストを意識させるセリフ回しはとても人工的で、日常生活では話さない言葉のオンパレード。正直変。
だが、この違和感を探ろうとするうちに作品にあっという間に集中させられる。すると話が進むうちに人物に温度が見えるタイミングが。その瞬間に、「人工的で無機質に感じられたはずの言葉たちが全く別の温度と感情をもって現れる」という体験が起きる。2話の教授の疎外感に関する話の場面や3話のある秘密が明かされる所はまさにこれ。言葉への違和感が一瞬で別の景色に転じ、まるで違う世界を見るような感覚になる。この痺れるように視界が変わる経験こそ濱口監督作品特有だし他じゃ得がたいものであるなと。

あと耳を澄まさずにいられないリズムと心地良さがあるな。1話の古川琴音の会話しながらの「やっぱいいよね、この感じ。リズムがある」というこのセリフ。まさに本作を象徴している。
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