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対峙のGreenTのレビュー・感想・評価

対峙(2021年製作の映画)
3.0
高校で乱射事件を起こした生徒の両親と、その子に殺された生徒の両親が会う、というお話です。

実際には、加害者の親と被害者の親が会うってことはないんじゃないかなあと思いました。話を聞いていると、この乱射事件では10人も死んでいるらしい。10組の被害者の遺族と会ったら、私だったら精神的に持たない。

しかしこれこそ「創作だからこそ真実が見えてくる」のいい例ではないかと思いました。こういう事件の加害者は、ゲームばかりしているヲタクだったとか、友達もいないような子だった、親は何してたんだ、防げなかったのか等々、ニュースやドキュメンタリーだと加害者やその親をことさら悪魔的に描いたり、却って真実が見えない。

評論家から高評価を得ているのは加害者のお母さんを演じるアン・ダウドで、こういう事件を起こす子供は、後から振り返ってみればいろいろあるんだけど、親ってものは「まあそうは言っても大丈夫そうと信じたい」ものだし、良かったり悪かったりと波もある。だから「なぜ止められなかったんだ」と言われても・・・というのはわかる。

かと言って罪悪感がないわけではない。「自分が殺人者を育てたんだ」というのに愕然としている。だけど、親と言うものはそれでも子供が可愛い、というのも納得させられる。

可哀想だなと思ったのは、事件が起こった後、警察が家に来て、お父さんとお母さんを別々の場所で「自殺しないか」と見張りながら家宅捜索し、お母さんが「うちの子は死んだの?」と警察官に訊くと「はい。しかし詳細は説明できません」と言われたと。

私が感心したのは被害者のお母さんを演じたマーサ・プリンプトンでした。この人『バックマン家の人々』でキアヌ・リーブスのガールフレンド演じて以来観てないんですけど、すごい演技派だと思った。

このお母さんは、子供を殺されたんだから、怒りに燃えているし、悲しいし、自分の感情をコントロールできないんだと思うんですけど、最後、加害者のお母さんを許す、そして加害者の男の子も許す、と言うんですね。じゃないと、怒りや悲しみに飲み込まれて、夫婦生活も上手く行かなくなるから・・・と。

許すって言うのは、相手に対して優しさを見せるとかそういうことじゃなくて、自分を救うってことなんだなあと思いました。

しかしこの映画はこの4人が一室でずーっと喋っているだけなので、面白くないって思う人がいてもおかしくないですが。iMDb の投稿者に「事件の回想シーンとか入れてくれたほうが面白かった」って言ってる人がいたんですけど、私は逆で、なにも映像がなく、話を聞きながらなにがあったのか想像するので、この一見退屈な会話劇に集中することができたんだと思いました。

ハリウッド大作がこういう映画を取り上げると、銃規制だとかポリティカルな要素を入れたり、また音楽や歯が浮くようなセリフで極端にエモくしたり、冒頭に言及した「真実が見えない」作りにすることが多いですが、この映画はそんなことなくて、「ああ、多分こんな感じなんだろうな」と納得できることの方が多かったです。

一つ難を言えば、最初、4人の親たちが現れるまでが結構長いんですよね。会合は、とある教会の一室を借りるんですけど、教会の人がその部屋を準備しているところが長くて「ああ〜もういいや!」って観るのやめようかと思ったくらいのらりくらりしている。教会の人もなんだかイラっとくる人だし(笑)。

で、最後も、ちょっと引っ張りすぎな感じで、こちらも「ああ〜!」ってちょっと思った。まあそういう手法的なところでイラッとしたけど、学校の乱射事件って、なんでこんなことが起こるのか、防ぐことなんかできなさそうな、どう捉えていいのかわからないような問題じゃないですか?そういう主題に対して真摯に向き合っている感じは好感が持てました。
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