スズキ

対峙のスズキのレビュー・感想・評価

対峙(2021年製作の映画)
1.9
全然ピンと来なかったな。キリスト教信者とか子供がいればまた別なのかもしれないけど、自分はどちらでもないので。

現時点で、本年ワースト候補。
『ありがとう、トニ・エルドマン 』とか『14歳の栞』ほどの邪悪さがあるわけではないけど、ひたすらに不親切な内輪向け作品。

お金をドブに捨ててまでこの映画をどうしても見たいなら、事前のストーリーは予習しておくべき。

以下気になった点を。

・今から何が行われるのか、話し合う人たちは誰なのか、どんな事件があったのかを一切説明しないのは商業映画としては致命的にダメだと思う。自分は事前にポスターを見てたからある程度はわかったけど、あまりに不親切。

・事件の詳細を事前に説明しないから、途中の会話で説明せざるを得ないんだけど、その辺りの展開が不自然だし、そこまでも退屈で不親切。
冒頭に、防犯カメラみたいな固定カメラの映像で最低限事件を説明すればいいのに。どう考えても犯行シーンは軽く見せておくべきだったと思う。
あるいは冒頭の部屋の準備を見せるシーンに新人を配置して今日何が行われるのかを手短に説明したりとか、できるはずなのに。何でやらないのか、やらないことによって何がプラスになってるのか、全くわからない。
犯人側も死んでるの知らなかったよ。

・説明しないけど会話の中で徐々に明らかになる、みたいなスタイルの作品もあるけど、そういう作品の中にも名作はたくさんあるし、その構造が効果を上げている例もたくさんある。しかしこの映画はその構造が全く意味を為していない。
そういう作品にしたいのなら、普通は説明パートまでの展開で、観客の興味を惹くような仕掛けを作るべきなのに、そこを放棄してる。
限られた時間の中であまりにも酷い悲劇を短く説明するのは素人にはできない難しい作業になる。制作側がそこと向き合わず逃げているのは、制作者として失格と言わざるを得ない。
「観客を信頼し、委ねること」が成立するのは、最低限の説明をした上で成り立つ話。それを放棄するのは、客への信頼ではなく、逃避、裏切りだろう。
この辺りからもわかるけど、知的で辛抱強くて従順で興味を持ってくれる人にだけ向けて作品が作られていることがわかる。その辺りに不快さを覚えた。

・ほぼ密室の中の会話なので映画としての面白さがカケラもない。なぜ映画にしたんだろう。舞台で充分だろうに。

・普通の商業作品は、観客が十分に集中してないことを想定して、大事なことは展開の中でうまく繰り返したりまとめたりするけどそれが一切無い。それはそれで一つのスタイルなのかもだけど、上記の理由でだいぶ心が離れながら見てしまったので、突然被害者側が赦しだして、かなり置いてけぼりをくらった気持ちに。まとめたり繰り返したりをさりげなく挿入するのは大変技術力のいるものなので、そこの努力を放棄してるのは単に下手で出来なかったからだろう。

・そもそも被害者が10人いる中で、一組の遺族だけが、加害者遺族と誰もいない空間で話すことが意味不明。一方的に責める権利をもった側と、言い分はあるけど(立場上)それを言えない側が話し合って、実りのあるものになるわけがなく、第三者を置かないと成立しないと思うんだけど。ここはせめて説明がほしかった。
手荷物検査のシーンがないからいきなり銃を撃ち始めるのではと考えながら見てしまった。こんなに上手くいくわけないやろとしらけた気持ちで見てしまう。
実際にあった出来事なのか架空なのか知らないけど、事件を映画の題材にしたいだけに見えた。

・そもそも家族であろうが、他人なんだから、よほどのネグレクトとかでもない限り、親の責任はほぼないと考えるべきだと思うんだけど、専門家のコメントとかも欲しかったな。関心のない第三者からすると、得られる知見がなかった。

・途中でカメラが手持ちになってちょっと酔った。感情が動くからカメラも動かす手法、もうお腹いっぱいだよ。気が散るだけ。

・最後に讃美歌を持ってくるんだけど、それは作品ではなく、讃美歌の感動なのでは。

・何度もリボンが映るんだけど、それを説明しないのもなあ。冒頭に意味ありげに映すステンドグラスも説明しない。自然に考えれば被害者側の親子の何かメモリアルなものか、事件現場か追悼の場なんだろうけど。何もわからない。恐らくパンフとか監督インタビュー読めば意図があるんだろうけど、その辺りは最低限、映画内で説明しようよ。客を舐めすぎ。

全体的に不親切すぎるし、文脈を理解できる人のためだけに作られてる。それならそれで一般公開しなければいいのに。

・そもそも銃乱射で大量殺人ができるような奴は恐らく脳に何らかの疾患がある可能性が高いんだから、疾患のない人間がどれほど話しても理解のしようがないのでは、と思ってしまう。その辺りの知識は今や常識の範疇では。「やり場のない気持ちの処理」がテーマなのはわかるけど、あまりにファンタジーがすぎるし、映画のそもそもの前提が理解できなかった。

・本作は、「修復的司法」なのだそうです。せめてセリフとかで登場させるべきなのでは…。本当に不親切極まりない。
スズキ

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