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対峙のcinemageekのレビュー・感想・評価

対峙(2021年製作の映画)
4.7
対峙
監督・脚本/フラン・クランツ
テレビドラマ『ドールハウス』のトファー・ブリンク役で知られる
出演/
被害者側の親
リード・バーニー
アン・ダウド

加害者側の親
ジェイソン・アイザックス
マーサ・プリンプトン



高校で銃乱射事件の加害者の親と被害者の親が対話をする映画
これだけを聞くとなんとも地味な映画に思えるが、そうではない傑作

銃乱射事件を題材にした映画といえば

マイケル・ムーア監督の『ボウリング・フォー・コロンバイン』
ガス・ヴァン・サント監督の『エレファント』、
キース・メイトランド監督の『テキサスタワー』
などがあり、公開される都度様々な形で話題になった。


アメリカのとある田舎にある教会。
買い出しにでかけていたであろう女性の教会スタッフが帰ってきて礼拝堂に入るとピアノを弾いている少年と教えている男性がいた。
彼女は軽く挨拶をすると地下へ。
この後にやってくるゲストのために部屋を準備する

そこにやってきたのは1組の夫婦。その後もう一組の夫婦が教会に到着し、準備された部屋へと案内される。

その部屋に来たのは高校の銃乱射事件の加害者の親と被害者の親だった。
加害者側にも被害者側にも、事件に巻き込まれなかった別の子どもがおり、近況報告のようなとりとめのない会話から始まる。

しかし、今回の会合の本当の意味に向けて少しずつ本音がこぼれ落ちていく。



終始冷静だった被害者の父親。最初から不満ある雰囲気を出している被害者の母親。淡々と語り続ける加害者の父親。6年経っても憔悴した雰囲気の加害者の母親。この大人4人の雰囲気が会話が進むに連れて変化していく様子は、素晴らしい脚本と俳優のおかげとも言える。


この映画のキーとなる高校での銃乱射事件は一切映像では再現されない。
残された親御さんが語る言葉だけで、事件の様子が表現されるが聞いているスクリーンのコチラ側が思わずイメージしてしまうほどに衝撃的でありリアルなセリフと演技のため、直感的に言葉にできないような悲劇がおきたことが伝わってくる。


被害者夫婦は亡くなった子どもを思い、子どもに想いを馳せる。
悲劇に巻き込まれたことで怒りの矛先は犯人に向けられる…はずだったがその犯人の高校生は図書室で自らに引き金を引いてこの世にはいない。
無条件に家族にも怒りを向けたくなるが、それが正しくないことは本人も分かっているが、怒りの感情をぶつけそうになる

という流れは演技の巧さもあって見応えどころか、一気にスクリーンに引き込まれる圧倒感。


一方の加害者側の夫婦も後悔と懺悔の連続であることがわかる。
自分たちの育て方、子どもへの接し方の後悔と謝罪。
産んだことの意味と無意味の間で苦悩し続ける姿は、単純に犯人の親ということで世間から受けたパッシングの重さと、夫婦が受けた非難に苦しんだ様子が見て取れる。


そういった それぞれの違う立場の夫婦ではあるが、根底にあるのは子どもへの愛情。
どういう形であれ子どもを思う気持ちがあることの吐露は、観ていて痛々しくもあり、深い愛情をも感じる重要な部分であると言える。



この映画で、ぜひ気にしながら観てほしいのはカメラワーク

感情の高ぶりと緊迫感あるシーンでは手ブレが明確に加わっている。
これは劇中の俳優の感情とスクリーンがリンクする効果により、観ているコチラ側にも揺れる感情が伝わってくる


そして 母親2人の言葉と感情の流れ、
子どもを思う愛情の深さの部分を読み取っていくとこの映画の深さはより感じられると思う

そして協会で行われている会合だからこそのラストシーンに向けての演出は、キリスト教ならではのものではあるが、日本でも同じような格言がある

罪を憎んで人を憎まず

まさにこの言葉に通じる映画ともいえる。


ネット上では様々な犯罪のニュースが流れる。テレビでもそうだ。
犯人不在となった場合、報道素材の方向は親や家族に向けられるが、それが果たして正しいことなのか?
家族が犯罪を犯した場合、家族はどこまで責められなくてはならないのか?
家族が被害者となった場合、プライバシーを暴かれることは果たしてどうなのだろうか?
といったメディアリテラシーにまで考えてしまうような映画になっている。



さらにもう一つ加えるとしたら、今のネット社会への問いかけもあるかもしれない

ネット上では相手の話をしっかりと聞き取り、相手の意見を汲み取り、相手との共存・共感できる部分を模索することは少ない

ネットとリアルは違うが、言葉だけの世界だからこそ相手の理解をするための対話が大切でもあることを示唆しているのかもしれない。



今回の映画では、加害者と被害者の親が、実際に会うことで相手のことを知ることができる。そこからの1歩が本当の意味での相互理解に繋がることを描いている。
そして 赦すということの意味。
赦すということにより、相手を。そして自分自身も開放されるとともに、
自分が自分を赦せることを描いたとてもとても深い作品です


2023年の傑作の上映です。ぜひ映画館で御覧ください。

https://www.youtube.com/watch?v=yphnuuy1Di4
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