ふじたけ

秘密の森の、その向こうのふじたけのレビュー・感想・評価

秘密の森の、その向こう(2021年製作の映画)
3.0
 冒頭、フランス語のさよなら、“Au revoir ”、単語に即して訳すなら、「また会いましょう」を親族ではない老人たちに伝えていくのだが、死に行く祖母には伝えられなかった。なぜなら祖母とはもう二度と会えないからだ。しかし最後、もう会うことのできない幼い母親に対して、主人公はさよならを確かに伝えた。その直後、再び母は姿を見せる。幼い母親とあった事実は、誰にも伝えられない。言ったところで、馬鹿にされ、ただ否定されるだけだろう。誰にも伝えられない以上、その事実はこの世界に無かったことになる。しかし、彼女の記憶には確かにその事実は残っているのだ。誰にも共有できない秘密を抱えた時、それが大人になるということであり、彼女は母親を名前で呼ぶのだ。

 とそれっぽいことを書いてみたが、なぜか乗り切れない。
 まず、望遠のカメラと被写体の距離が気に食わない。その上光の具合ではっきりしない顔なので、非常に窮屈で見づらい。色の選択やコントラストも気に食わない(ただ照明に関しては後半に行くほど、自然光の扱いのうまさで良くなっていた)。
 もう一つ致命的なのが、この映画のショットには時間が感じられない。ぶつ切りなことに加え、あまりに運動の連鎖がなさすぎるので、シーンを感じ取れなかった(ゴダールの映画がぶつ切りなのに、確かな時間と持続が存在しているのとは大違いだ)。ただでさえ短いのに、検閲されてカットされたのかとびっくりした。
 ただ、上で述べた時空間の短所は、長所にもなりうる。窮屈さはそれぞれの人物の閉塞感に繋がり、森の中での広がりには欠けるがポツンと開放的に人物が捉えられるショットが活きる。時間の欠如は、過去と現在が不思議に混じり合う物語に繋がる。
 しかしどうにもそうした仕掛けに凝っているだけで、映画のシーンを一からちゃんと作り上げようという気が感じられないため、やはりあまり好きにはなれないのだ。
(映画とは関係ないが、109シネマズは映画が始まる前のわけわからん広告をどうにかしろ)
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