セリーヌ・シアマとクレア・マトンは、ここにいない誰かと、終わった時間の残り香を、或いは今にも消えそうな思いと、もしかしたら万人は許してくれなさそうな願いを、画面に何とか刻もうとする。その姿勢が本当に不思議で愛おしい。部屋の片隅に見える影や、誰もいない廊下の奥、扉を開けた先の光景。家と森だけで展開されるのに、こんなに全場面がスリリングで豊かなことあるか。73分とは思えない満足度。オープニングの長めのショットから映画の呼吸に吸い込まれる。ずっとマリオンの後ろ姿を追っていたネリーが、マリオンに先立ってボートを漕ぐ場面。お父さんが髭剃った後、クリストファー・ノーランに激似だった。