そーいちろー

イントロダクションのそーいちろーのレビュー・感想・評価

イントロダクション(2020年製作の映画)
3.5
ミニマリズムの徹底と本質的な人間ドラマの組み合わせにより、今現在において世界の映画シーンで孤高の存在となり、その旺盛な創作意欲は、完璧に60年代ゴダールや創造社時代の大島組を思わせるホン・サンス。まさに彼の公私共に最愛の人であるキム・ミニや、彼の近作を観ると、必ずどこかしらで観たことのあるメンツだけで会話劇と移動、というシチュエーションのみのミニマリズムで押し切るホン・サンス組の作風は、ハマる人にはハマり、ハマらない人にはハマらない、そういうものである。本作は、ドイツに衣装制作を学ぶために留学した女性と、その彼女を追ってドイツへ行こうとする青年(彼は役者志望だった)、留学する女性の母と、その彼女をドイツでの後見人として見守る役目を担った韓国人女性(キム・ミニ)、さらに青年の母親と、その恋人のような演劇人の中年男性、などが入り組む形で展開される群像劇である。後半の浜辺のワンシーンのみで唐突に、未来のシーンが差し込まれる。そこで父親に援助まで申し込んで追いかけようとした彼女との関係は終わり、青年は父の跡を継ぎ、医者を目指していることが示唆される。そして彼女は失明の危機のあるぶどう膜炎という眼の病気を患い、彼の母親も療養に利用するというホテルに滞在している。本作が将来の映画史的に意味を持つとするなら、この作品はまさにCOVID19が世界中に得体の知れない恐怖として蔓延し、行動自粛がされ、21世紀ではもちろんだが、長い人類史においても稀有な共有体験をもたらしたウィルスが猛威をふるいはじめた2020年2ー3月という真っ只中で撮られた映画である。なんとなく形而上的なイメージが投影され、様々な語義を含む「Introduction」というタイトルも、まさに人類史がある局面に「Introduction」されようとした、あの時の瞬間を思わせる。その中でホン・サンスは、何かを声高に主張するわけでなく、いつも通りのセンス良い小気味のいい映画を撮った。これはよく考えると、物凄いことである。明らかに本作はこの姿勢が意識的である。いつも通りであることの難しさを痛感させられたあの時期を、本作は改めて考えさせられる。
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