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やすらぎの森のslowのネタバレレビュー・内容・結末

やすらぎの森(2019年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

テッドの絵画が世に出されたことに賛否があることは理解できる。わたしはこれを観ながらソール・ライターのドキュメンタリー映画のことを思い出していた。内容については触れないけれど、一つボタンを掛け違えていたら、同じような論争を生んでいたかもしれないなと。あのギャラリーの様子が山火事で被害に遭われた方々へのチャリティか何かとか説明があったとしても、勝手には変わりないわけで…やはりアウトなのだろうな。ただもし彼らを密告したのがラフだったとしたら、彼女は物語上そういう役割だったと思うしかない。トムは最期の体力と気力を込めたあのステージを終え、自分の人生に終止符を打とうと決めたのだろうか。刻一刻と迫る山火事も無関係ではなく、死を連想させ、あの強気だったトムを弱気にさせたようにも見えた。そして、犬のこと。わたしはそこまで含めて彼等の決めたことだったのだろうと思えたので、そこで興ざめとはならなかったけれど、気になる方がいることも理解できる。では、自死すると決めた時は仲間に託せばよかったのか。そもそも犬を登場させなければよかったのか。他に何か大きな意味があったのか。エゴを捨てきれない人間を象徴していたとか。そこはいまいち読み取れなかったな。一番壮絶というか、少しずつ明かされていくマリーの半生(というかほぼ人生だろう)。『セッション9』などでも聞いたロボトミー手術を免れたことが唯一の救いではあったものの、60年という年月と、その間人権などなかったという彼女の告白には胸が苦しくなった。それにしても、彼女を演じたアンドレ・ラシャベルの可愛らしさよ。八千草薫さん的なキュートさ。マリーそのものではないかと思わせるウブな反応の演技が素晴らしかった。残念ながら本作が遺作となってしまったとのこと(その詳細を知ればまた考えさせられる)。チャーリーはそんなマリーを癒す役割りだったのだろうか。しかし、世捨て人が愛を取り戻すことは、何か大きな変化に思える。もしかしたら、2人はその後、山を去ったのではないか。そうでなくても、犬は誰かに託す選択をしたのではないか。そんな風に思えた。彼らの最期の暮らしは、グラスに入れた石のようなものだったのかもしれない。残りわずかなお酒を味わう手段(氷のような音がすれば味わいも増して感じられる)。しかし、実際には慰めにしかならないと、彼らはわかっていたのだろう。果たして、その最期の一杯は、美味しかったのだろうか。
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