ヨミ

ボーはおそれているのヨミのネタバレレビュー・内容・結末

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

おそれているのはこっちだっつーの

アリ・アスターは前科2犯(『ヘレディタリー』『ミッドサマー』)なのでマジで観たくなかったし、どうせどっかでちぎられたり潰された頭が出てくんでしょ??とか思ってたら「シャンデリアが落っこちてきて頭が吹き飛ばされました」って話がてできて人間の頭にいったいなんの恨みがあるんだ????と思いましたとさ。あと西洋のおっさんを全裸でガンダさせることへの執着はなに?
さて、公開日に行く熱心ぶりは別にアスターの強火ファンというわけではなく(重要な作家だとは思っているので観るつもりではあった)、『ミッドサマー』をめぐるTwitterの狂乱に嫌気がさしていて、今回はそれを回避したかったからというのが大きい。そのうち本作を過剰なことばで彩り(「観る悪夢」「3時間の拷問」「地獄のお伽話」みたいな)バズを頂戴しようとするひとびとが発生し、やがて「元ネタ」の「解説」や「考察」を見るようになる。『ミッドサマー』を『ミッドソマー』と呼ぶのは厄介な映画ファンだと言い続けているが、どっちかって言えばそっち側としてあの二の舞になるくらいなら初日に行くのであった。
まあぶっちゃけあんまりよくわからなかったんですが……。苛烈なイメージが続いて不条理と混乱を突きつけながらちょいちょい笑えることをやってくる。まあコメディっちゃコメディだけどさ……。アスターをめぐる言説で(彼の口車に乗って)「監督はこれをホラーだと思って撮っていない!それがいちばん怖い!」みたいなのあるけど、もちろんアスターは自分がホラーの文法をやってることに強く自覚的だし、それは『ヘレディタリー』が1本でホラー映画ぜんぶやってみましたみたいや映画だったことからも明らか。怖い『キャビン』みたいなもんでしたね。『ミッドサマー』はインターネットの「死は救い笑」みたいな言説とマッチしてしまったが、恐怖や神秘が救済になってくのって(詳しくないんで下手なことは言えないが)ホドロフスキーと近しくない?と思う。そして今回びびった。いや「そこにはお前の見たくない記憶があるのさ」と実家の暗部を見るのはよくあるが、まさかそこにちんちんの怪物がいるとは!クローネンバーグかよ!めっちゃ笑いました最高
あとFuck you!といいながらすべてを刺しまくってる全裸のジジイとか、騎乗位で死んだひとが死後硬直でそのままの姿勢で運ばれてくとか(これなんか既視感あるけどなんだっけ)、とても笑える邪悪ジョークは多いんだけど、たぶんあんまり通じきってないものも多いんだろうな。
そしてやっぱアスターは呼吸が上手い。『ヘレディタリー』のアレルギー発症して呼吸困難になるところ、『ミッドサマー』の背中を開かれて贄にされてるひと、「これはまずいやつだ」って呼吸音のおそろしさ。今回は首から手を離すところでした。あと女のひとの叫び声の怖さを最大限に引き出していると思う。冒頭の「私の赤ちゃん!!」の一連のシークェンスは本当に嫌な想像をさせ続ける。
物語は薄めで精神世界の抽象度高めなのでまあいくらでも「解説」はできるでしょう。なんかユングとか当てはめて説明してるひとはもう見つけました。あと最後の裁判のとことかもカフカの話とかできそうですね。では超治安の町→不気味な医師家族と周囲→謎の旅一座(→一炊の夢のような家族)→実家、と胡乱に舞台が移っていくこと、空間としてよりむしろ時間的な乱雑さすらあるのはどう考えたらいいのだろう。いろいろ考えてるうちに「長すぎねえか?」となっちゃいましたぼくは。
あとおよそホアキンの俳優力によって成り立っている部分が少なくないと思える。ホアキンの存在力によって夢と現実の曖昧さ、そんでその区別というか、夢と現実とか考えることの無意味さが説得力を持ってやってくる。あと絶対どっかで見てるカウンセラーのひと、音もなく笑い続けるの不気味で良かったですね!
後半割と退屈さを感じるところもあったのだけど「見たことない(と思える)もの」を見せてくれる、アスターの唯一性はよく感じられた。
結構評価は難しいが、これまでの2作と毛色も違って悪くないのではなかろうか(しかし超ダメってひとがいてもぜんぜんわかるよ)
ヨミ

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