犬里

ボーはおそれているの犬里のネタバレレビュー・内容・結末

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

我らがアリ・アスター!最初から最後まで安心して楽しめる不安な映画です!
めちゃくちゃ好き。

悪夢、毒親、弱者男性、発達障害、統合失調症?みたいな印象を受けた。
怖い映画・嫌な感じの映画を観るときって、「急に忖度されていい話風に終わるかも」とか、「ラスト急に雑に畳まれるかも」みたいな不安が常にあると思うんですが(?)、そこはさすが我らがアリ・アスター、最初から最後まで一切手を抜かず不安と恐怖たっぷり!

首無しの死体、屋根裏部屋、落とされた人が岩でグシャリ。ヘレディタリーやミッドサマーを感じる要素も随所に散りばめられていて、アリ・アスターの悪夢詰め合わせセットのような作品。グロは以外と少なく(というかほぼない?)、精神的に嫌な感じになる「不安感」に全振りしていると感じた。
ペンがカスカスになって自分の名前が書けなかったり、シャンデリアで死んだ話をしてる部屋の天井にシャンデリアがあったり、細かい違和感・「嫌」要素の散りばめ方が上手い。じゅうぶん大きいティーンエイジャーなのに母親と同じベッドで寝てるのも嫌な感じ。
怖いだけじゃなくてユーモアもあり楽しい。序盤の治安悪い街のシーンはもはやコメディのレベル。「現実」がこれなので、その後の悪夢のような展開と地続きになっていても何も違和感がない。さらにボーをずっと追ってくるジーヴスなんか、もうめちゃくちゃ。
グレースとロジャーの家のシーンもすごく良かったな。アメリカン・ホームドラマみたいに陽気な仲良しファミリーって感じの夫婦なんだけど、中年男性を少年扱いしてるのも気持ち悪いし、トニーに対する扱いが異常すぎて、この夫婦も毒親だということが分かる。
母親の家で壁に貼ってある写真やポスターを見るシーンが秀逸で特に好き。コラージュ写真を見るシーン、特に台詞とかで説明されないし映る時間も短いのだが、その分「あ!」て気付いてゾワワする怖さがある。
母親の家は豪華で立派な家なんですが、中の部屋を区切る壁が全然なく、外からもガラス張りで丸見え。これは、隠れる場所がないとか、どこにいても母親に監視されてるとか、そういう要素を表しているのかなと感じた。

大まかな流れとして、こういう構成なのかなぁと思った。
①ロジャーの家で「毒親に過保護に守られる」という少年時代を追体験する
②森の劇団で「独り立ちし将来を夢見る」経験をする
③母親の家でこれまでの自分の全人生を振り返る(すべてが母親の掌の上であったことを知る)
④船で洞窟を抜ける(胎内返りみたいな表現では?と思った)
⑤人生そのものを断罪される(生まれる前の空間であるドームの中で、生きてきたことそのものが罪であるような一方的な断罪をされる/原罪?)

ホアキン・フェニックスの演技も流石だった。こないだナポレオンやって王冠被ってたのになぁw弱者男性の演技は、ジョーカーを彷彿とさせる生々しい演技だった。危機的状況に陥っても、自分の力で突破するようなヒーロー的行動をせず、周囲に力なく「助けて」「どうしよう」と言うだけなのは、とても虚しく悲しい。彼自身が悪いというよりは、母親に徹底的に監視・管理されて、そうすることでしか生きてこられなかったんだろうなぁ。

2回目観てきたので気づいたことを追記。
・最初のセラピストと面談してるシーンでセラピストのデスクにセキュリティカメラがこちらを向いて置かれていて、赤く点滅してる
→母親の家に同じ型のセキュリティカメラの宣伝パネルがある
・ボーの家のレンジもレンチンしてるごはんもMW印(ご飯は初見で気づいたけどレンジもか〜)
・作中ではそのシーンにゃいんだけど、序盤のボーのスマホの履歴に鍵屋(key smith)がちゃんとある。鍵屋にちゃんと連絡して話つけてるのにそのことを認識できてないのか、はたまた大家に電話したときと同じように断られてるのか、どっちだ?
・ロジャー宅で監視カメラのチャンネル早送りした後、トニの部屋での騒ぎを聞いてグレースが駆けつけるシーン、テレビはラストシーンの、誰もいにゃいドームで船がひっくり返っているシーンで映像が止まっている
・気絶したときや夢を見てる時にくり返し黒い海のカットが映るので、あの黒い海は深層心理にゃんだろうにゃぁ。てことはラストシーンはやっぱり…
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