シカク

ボーはおそれているのシカクのレビュー・感想・評価

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
4.8
楽しみにしていた、本作、とはいえ賛否が分かれてるようなので、どうかなぁと一抹の不安(ボーよろしく)もいざ蓋を開けてみたら、期待を遥かに超えた傑作でした。 
過去作より、断然、今回の方が好みで、完全にハマりました。
構図、音、色彩感、抑揚、脚本、演技がキマっており、カオスでダークな狂った悪夢に否応なく強制的に乗せられ、追体験させられる感覚に恐ろしくも病みつきに。
とはいえ、人を選ぶでしょう、ヘレディタリー、ミッドサマーが好感触だった人でさえも監督の一切忖度なしの最高速をぶつけて来ます。あと体調も左右するような気がします、体調が芳しくない時に見る夢見の悪さを彷彿させるので、ある程度、心身共に整ってる時に観るのがおすすめかと思います。
ボーが、引き取られ夫婦の家で、静養している時に、夜中暗闇の中、借りている娘のトニの部屋から飛び出し、リビングのソファで横になっているトニに居た堪れなくなって、「おじさんはソファでも全然寝れるよ、君の部屋なんだから、部屋戻ってゆっくり寝ていいよ」といういい人丸出しの優しい声掛けに、音楽もそれっぽいのが被さって、暖かみのあるムードをめちゃくちゃ盛り上げてる所と箸にも棒にもかからないトニとのやり取りがツボでした。
ホラーとかスリラーも要素としてはあるとは思うけれど、個人的には、全体として完全なるアリ・アスター流コメディという感じで、各々、散らばっている好きな所を感じ取り、探り当て、手に入れられるからといった感じ。
序盤の廃退し混沌とした街の世界観とそこに身を置く人々のイカれっぷりをもう少し長く見たかった、この舞台のみで進行する一つの映画が作れそうで、すごい良かったから。
冒頭の街に紛れているボーは、昨今の現実世界に溢れる、不安や制御の効かないもどかしさに対して一定の限度で慣れたり諦めたり妄想癖を伴う悲観的思考を余儀なくされている日常に突如、ネガティブな想像の範囲を大幅に逸脱したもはや理解も届かぬ狂気の牙がが剥き出され、ひたすら恐怖に晒され追い回される続けるボーを不憫に思いながらも不謹慎に笑ってしまうこの寸法が秀逸すぎる。今作も家族のモチーフを下敷きに、ポジティブさを一切排除して、身内の中での発生する義務感や責任感を、切っても切り離せない厄介なしがらみとして人々の人格形成の根の深い核心部にまで絡み付き、一種の呪縛に絡め取られる図式を匂い立つほど醜悪で執着的なシナリオで表現する作家性は健在。
この作品でアリ・アスターのやりたい事を余す事なく解放され、今後の作品の事を含めて、観る側が付いて来られるかの試金石のような面もあるとすれば、自分はひとまず食らい付いて行けてるので、更なる期待をかけざるを得ない。

とにかくめちゃくちゃ面白かったので、是非劇場でって感じの映画でした。ただ、本当に意味不明で辛く暗いところも多分にあるし、作りが疑似体験的にトリップする様な没入感がありそれが癖にるけれど、メンタルと体力が求められます。
それを乗り越えれば、だいぶハマる映画だし、それから考察や見てる人同士の感想の言い合いが、凄い楽しめる良い映画だと思いました。
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