HAL8192

ボーはおそれているのHAL8192のレビュー・感想・評価

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
3.0
帰りたくない家に帰る話

賛否両論あって当然の映画。公開規模にしては動員が少ない印象。ただこの映画が満員御礼になっていたら、日本って病んでるんだなぁと感じる。

上映時間が3時間の大作映画で、かなりキツい内容含めて、かなり人を選ぶ作品。そもそも楽しませるタイプの映画ではなく、カップルで見に来るようなポップコーンムービーではない。

明らかに強烈なアート系映画。それも負の感情を楽しめる体力がないとメンタルをガリガリと削られる。精神的な余裕のない日は見に行かない方がいい。

作品的にも映画館での鑑賞を進めたい。3時間の気持ち悪さは配信で細切れに見るのではなく、劇場で一気に見た方がいいだろう。

また絶対に「「「母親」」」と見に行ってはならない。ポルノ作品を一緒に観に行くよりも危ない行為だ。

前評判では、難解な他人の悪夢を3時間見せられているようなという話を聞いていたが、話そのものが理解できないというほど難解ではない。ただ悪夢という部分は確かにそうだ。

整合性や矛盾に満ちた演出がいくつかあるが、それはひとえに主人公のボウという男が、信用できない語り手だからだ。

彼の主観で物事は語られるがどこまで真実なのか? 観客には完全には分からないつくりになっている。彼自身は別に騙す意図はないのだろうが、彼の臆病すぎる不安症の目には、世界が歪んで見えている。

そんなボウという主人公は、そもそも共感できる動機で劇中を動いておらず、そこまで必死に帰郷する動機が分からない。ただ怯え、責任から逃げているようにしか見えない。

彼が信用できない語り手である以上、観客も彼を信用できないし、彼の事を好きにもなれない。

最終的にただただ不憫だなぁとしか思えなくなってくるのが「3時間」という時間だ。

ボウという人物が周囲から理不尽な目に遭い続けているというのを、その不憫さや不幸さを笑うブラックユーモア的な側面もあるのだろうが、どうにもキツい。

深読みや考察できるのは理解できるが、それがそんなに面白いとも思えない。母親へ感じる二律背反した感情を、与えられる愛の重さに潰れる様を、宗教的な規律により崩壊していく様を……観るのは苦痛だ。

支配的な母親が、全てを管理し、息子の童貞を奪いたかったというお話……に帰結するように思う。この話で、自分は笑えなかった。
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