きょ

ボーはおそれているのきょのレビュー・感想・評価

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
5.0
終点のないキチガイ地獄

これほど冷たさとユーモアが共存した悪夢は他にあるまい。
進んでいく物語に翻弄され、主人公と同じ様に不安と恐怖を覚える。
しかし、彼の人生を追体験することで、不完全な人間の見ている世界と彼の内面そのものを隅々まで味わうことができた。

面白いのが、全編に亘って主人公の主観で描かれていた事。
極めて客観的なシーンで構成されていたが、同時に得体の知れない恐怖へのおそれは、主人公に成り変わったかのように共感する事ができた。
この緻密な異化効果による映画体験は何者にも変えられない。

エスカレートしていく強迫観念は真実か妄想か。
自己への不安と傷を負った心を余す事なく曝け出した今作に、普遍的な人間の弱さと過去を反芻する行為がある種の無意味さと紙一重であることを感じた。

母性に囲われ、思春期の様な精神状態で外見だけ成長してしまった主人公は、母親の所有物そのもの。
アリ・アスターの作品に共通してある要素として、血縁関係であることの重荷を描いている事が挙げられる。
自由で突飛な創造力の中に、こんな身近なテーマを絡ませ、それを完成された作品にしていた。流石の手腕。

凄まじい映像体験と極上のストーリーを。
きょ

きょ