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ボーはおそれているのエスのレビュー・感想・評価

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
4.0
いつもその手に選択肢があることを知りながらも、状況に甘んじて”仕方ない”と責任から逃れ続けた人間の末路。そんな人の物語の追体験、はやくこの身体から抜け出したいって気持ちでいっぱいだった。マジでどっと疲れた。

理不尽な状況下において、自己憐憫に浸り続けるべきか、思い切って前に進むべきか。そもそも何が彼を縛るのか、耐えられずに帰りの電車でパンフレットをすぐ読み、2回目に挑んだ結果、意外にもスッキリと今作と向き合うことが出来ました。

自分にとっての”母親”という存在の位置付け、それが鑑賞においての重要なキーだと思っていて、それぞれ母親がいて、良かれ悪かれそれぞれ異なった印象を抱いている。だからこそ母親が好きな自分にとっては先入観が今作への理解を困難とさせた。

”母親”という絶対的支配者の元、知らず知らずのうちに世界がすべて不安と恐怖で溢れていて、それ故に主体性がゼロに等しい。意志を示すと、怖い思いをすると知ってしまった為。今思えば、最初のアパートが彼にとっての鎖からの脱却の一歩に成り得るかもしれなかったのかなと思うと胸がきゅっとなる。

アリアスター監督作を通してでいえば、呪いとして展開されるどぎつい家族観には毎回驚かされる。

そんな唯一無二の価値観を余すことなく、正直に嘘偽りなく映像化するのは簡単なことじゃないと思うし、繊細で具体的な不安な感情の数々をアーティスティックに大々的に開示できる果敢さを持つ者はそう居ないと思う。自分も真剣に向き合わねばと感じました。

めちゃくちゃ疲れるし、みる環境とタイミングが印象を大きく揺るがす今作。興行的に大失敗だったとしてもA24は路線変更なんて絶対にしないで欲しいし、これからもこういう作品、”こういう”なんて括ることなく、パーソナルで脳を揺さぶるような作品がたくさん生み出されて欲しいと思う。
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