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ボーはおそれているのordinalのネタバレレビュー・内容・結末

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

体当たりでガラス割れすぎだし死後硬直は速すぎだし皆狂ってるし、ホラーと言うよりブラックコメディだった。

母親に愛されたくも、しがらみから逃れたい、でも1人では何も決められないという純情な少年(おじさん)ボーの葛藤が、聖母子像との対比、登場する二人の少女の複雑な心境と平行して描かれている。本作は終始、現実と幻想が入り交じり鑑賞者は夢を見ているかの様な錯覚に陥るが、ボーが(母の経歴が分かるポスターで明示される)発達障害という設定により、少年ではなく中年であることの面白味が薄れ、劣悪な住環境に心苦しささえ感じてしまう。

また、ボーは外科医の家で監視され、終盤の妄想裁判では監視カメラの目線で幼少期の自分を懺悔する。見る・見られ(ている気がす)る関係、天井裏の怖いもの見たさ、舞台の演者と観客の境を無くす(あるいはボーにとって一体化していた)森の謎コミュニティの方針など、ハートウォーミングにもホラーにも転じ得る"視線"も1つの重要なモチーフであった。

カウンセラーが実はグルで誰も信用できないというホラー映画お決まりのヒトコワシーン後、クライマックスでボーは母を絞め殺す。一目散にボートを漕いでアルノルド・ベックリン《死の島》さながら静謐な夜の海に浮かぶ岩山をくぐり抜ける場面は母の呪縛から逃れられた解放感と同時に頼るものが無くなった恐怖感が感じられるが、ラストはスタジアムの中央で数多の視線を集めながらエンストしたボートが転覆して終わる。
クレジットの背景にひっそりと浮かぶ灰色の舟底は棺に見立てる価値がある様に思えるが、それは幻想の死、つまりボーによる"恐れ"の乗り越えを象徴するのか、はたまた内側にボーを含み身体的な死を表す柩であるのか、、、考察は尽きない。

森を通じて地元へ入る場面では、アリ・アスター監督お得意の天地が一回転するカメラワークにより後戻りできない異世界への入り口感が表現されていた。

"オデッセイ・スリラー"を謳うなら、帰省までに本編2/3時間は長い気がするな~。
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