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ボーはおそれているのmisakiのネタバレレビュー・内容・結末

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

アリアスター監督の最新作で、ミッドサマーよりも難解だった。作品自体が凄い長いけど、最後まで頭を回転させられた感じだった。一言で言うと『見応えがある』ので、満足感は高い。

羊水に守られていたところからはじまる斬新な設定。この世に生を受けてまず聴こえてくるのは、母親のヒステリックな叫び声。
ボーの喋り方はとても幼くて、話の内容から母親からの虐待がトラウマになりつつ、共依存状態であることがすぐにわかる。
ボーの幻覚なのかはっきりしない世界が広がるが、全ての要素に不条理なおかしさがあって、これが現実ではなくボーの認知している世界ということが段々わかる。

ボーは発達障害を持って産まれ、母親からの虐待でさらに認知の歪みが生じ、愛着障害を抱えながら、不安が強くて母親と共依存状態でもある。不安と恐怖に支配され、幻覚となって現れ、さらに怯える。ボーは統合失調症が発症している状態と考えられる。
この作品は、ボーの視点で描かれており、統合失調症患者が見ている世界を我々も体験させられている。急に暴れたり、裸のまま外に飛び出したりと、日常で出会ったら"ヤバい人"と思われる行動にも、当事者には相応の理由があって起こっているのが良くわかる。

この作品にはさらに、母からの異常な執着がボーに降りかかっている。やっとの思いで母の家にたどり着いたボーは、これまで常に母の会社の商品や施設、職員に囲まれてたことに気がつく。そして母の支配からは逃げられないことと突きつけられる。

「必ず水と一緒に飲むように」と言われた薬を口に含んだ後、水がなくてパニックに陥るシーンがある。これは、言葉を文面上でしか受け取れない発達障害(ASD)の傾向が顕著に現れている。
また、アパートで就寝するシーンでは、ボーは何の音も立ててないのに、隣人が騒音を訴えてくる描写がある。この答えはボーが母の家に帰ってきた時に判明するが、実はここは社会復帰を目指すための街であり、住んでいる人は皆精神病を抱えているということ。つまり、隣人は幻聴が聞こえていて、ボーに訴えてきていた。

安心できるはずの羊水の中が、母にトラウマを抱えるボーにとっては安心できない場所で、いちばん最初のトラウマを受けた場所。そのため、水に関連する描写がスポット的に出てくる。母にお風呂に入れられるシーン、母の死を聞いた後のお風呂のシーン、プールの死体、と多い。そして最後ボーは強制的に水の中(羊水)と取り囲むボート(膜)に戻ることで子宮に帰る。

男性性にトラウマを持つボーだが、同時にボーは男性であり、己の中にある"男性像"に苦しんでいる。それが屋根裏部屋にいるクリーチャー。

途中で出てきた医者夫婦は、里親制度風の精神科閉鎖病棟のようなイメージだった。けど、夫婦もその娘も薬をお菓子みたいに食べてるし、娘は腕にリスカ痕もあった。医者は職員だったが、妻と娘はもしかしたら患者だったのかも?よくわからないから解説が欲しい…
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