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ボーはおそれているのmegurosのネタバレレビュー・内容・結末

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

日常の些細なことにも不安を感じる中年男性ボーを主人公としたホラーコメディ&スピリチュアルジャーニー。監督のインタビューによると”逃れ難い母親の抑圧”というのはとてもユダヤ的なテーマであるということだが、条件付きの愛情が子に与える影響を戯画的に、象徴的にも描いている。展開が読めず3時間もあっという間だった。SEXすると死ぬ血筋だという母親の嘘は酷すぎるが、その嘘ゆえに純愛的な展開に向かうかと思いきや...みたいなことばかり。尚、本作は自身の短編映画Beau(2011)を構想のきっかけにしており、鍵を無くして帰省ができず、隣人がうるさくて朝まで寝れないという冒頭の展開はそのまま残っている。

日常の些細な出来事がホラーになるため、自分の知っている日常が歪んでいく感覚もあり、前作よりも監督の奇才を感じやすい。サンフランシスコのダウンタウン等では実際の現実になっているとも言えるのだが、道の反対側に行くだけでも怖いとか、小銭が足りなくて警察に通報されるとか、警官に射殺されそうになるとか、そうした社会問題にもなっている状況に加え、自分がいない間に家でパーティーをやられる恐怖、ご近所トラブル、鍵を盗まれる恐怖、情緒不安定な若い女の子が怖いとかで不安のデパート状態。お医者さんの家にいるアフガン帰還兵が、現地では錯乱して味方も敵も皆殺しにしちゃった人であると分かる場面は、お願いだから2人きりにはしないでくれと笑った(ここはやや『ゲットアウト』を思い出した)。その他、劇場で爆笑したのは、水を飲まなければならない薬の副作用を調べる場面、それと天井張り付きおじさん、母親の家に掛けられている祖母の肖像画。

中盤以降の森の劇団パートでは、ユダヤ人が辿ったディアスポラが夢幻的に描かれる(ここのアニメパートは『オオカミの家』のコンビが担当しているとのこと)。ただ、政治的アプローチには向かわず、童貞であるから子供がいるわけないとオチがつけてしまうのは時期的なことも考えれば本当に凄い。客席とステージの権力構造を破壊するイマーシブシアター的なことを劇団員も話していたが、エンドロールでも客席から人がはけていく様子が劇場のミラー構造としても映される等、日常との境界を溶かし、固定化された視点への揺さぶりも試みられていた。まさにアートの担う本来的な役割だろうと感じて恐れ入る。
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