黄金綺羅タイガー

ボーはおそれているの黄金綺羅タイガーのレビュー・感想・評価

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
4.6
アリ・アスター監督の作品のなかでいちばん好きかもしれない。

『ヘレディタリー』でも『ミッドサマー』でも家族や恋愛のテーマを描いており、本作も一貫してそのテーマについて描いている。
しかし本作を観ると、前二作品はまだまだエンタメの皮を被せて表現していたんだなと感じてしまう。
本作では監督自身のやりたいことの中身をだいぶ出してきたな、と感じた。
(それでもエンタメ性は決して忘れないところがアリ・アスターの良いところ)

観る前はヤン・シュバンクマイエルの『サヴァイヴィング・ライフ』的なあれなのかと思っていたが、それどころではなかった。
やっぱりアリ・アスターというひとはかなりの映画オタクなんだと心底感心した。
ハネケも、ギレルモ・デル・トロも、アレクサンドル・ペトロフも、ピーター・ウィアーも、たぶん木下恵介も、もちろんシュバンクマイエルも、いろいろな映画をかなり観ているだろうし、そこから得ただろうインスピレーションのエッセンスが本作の随所に盛り込まれている。

本作のテーマとしては家族が主題だが、今回はとくに母や女性性の話である。
ユング的にいうところの“グレートマザー”のはなしのように感じた。
それと同時にエディプス・コンプレックスやエレクトラ・コンプレックスのような、自分のなかに存在する親と対峙するはなしでもあり、アリ・アスター流『ハムレット』であるようにも感じた。
(あと、テーマの類似性からなのか、やり口からなのか、若干のヱヴァみを感じる)

しかし、ヱヴァのようにも、ハムレットのようにも帰結しないのが、アリ・アスターらしさなのだろう。
最後の最後でこっちにもいろいろ突きつけてくる。
ヤな映画観たなぁ、という気分にさせてくるのが、サイコーでもあり、サイテーでもある。
そんなところも含めて、愛しています! と、一応言っておこう。