たぶん、多くの人が、この監督を評する時、声を合わせて言いたいこと。
「あなた、どうかしてる!」
御多分に洩れず、私も、この作品を見終わった時、そう思った。
けれど、時と場合によって、その「どうかしてる。」が、褒め言葉になる時もあるわけで。
例えば、アリ・アスター監督の前作『ミッドサマー』では、褒め言葉のほうに寄った、「どうかしてる。」だった。
今回のは、ちょっと違うかな… というのがエンドロールを観ながら思ったこと。
もちろん、ボーには世界がこのように見えて、このように感じていて、繰り返し描き出される常軌を逸したストーリー展開も、その彼の世界を疑似体験させるためであるのも、よく分かる。
例えば、本作のアニメ部分で起用されているレオン氏とコシーニャ氏の『オオカミの家』では、チリに実在した曰く付きのコミュニティでの虐待を疑似体験させる作品になっていて、こちらはそれに圧倒され、新しい映画体験として思わず唸ってしまった。
けれど『ボーはおそれている』を観ていると、その描き方には少しのバランスの取り方の差異で、脈絡もなくただ流れていく物語に見えるか、緊張感を保ったまま観客を巻き込んでいけるか… 結果が大きく変わってしまうのだと思った。
作中の、チ⚪︎コのモンスターが屋根裏に潜んでるシーンには、スティーブン・キングの映画版『IT』の後半に蜘蛛お化けが出てきたとき以上にずっこけた。
思わず笑ってしまったり、バッドトリップ的描き方に少しばかりわくわくしてしまったり、そのあたりを膨らましてもらえばもっとエンターテイメントとしてぐっときたのかも知れないけれど… と、ここまで書いて、「いや、アリ・アスター監督はそんな分かりやすいエンターテイメント作品になってしまうのが嫌だったのだ。」と気づいた次第。