秀ポン

ボーはおそれているの秀ポンのレビュー・感想・評価

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
4.9
このポスターを見た瞬間に「これは観るしかない!」ってなった。
情けないホアキンフェニックスの顔の大写しに、「ママ、きがへんになりそうです」
完璧すぎる。
そんで見た結果、めっっっっっっちゃ面白かった!

不条理で理不尽なことが主人公の身に降りかかり続け、主人公はそれに慄き続ける、そんな話最高すぎる!!!

見る前は、ボーがいろんなことに怯えながら、ときどき空想の世界に飲み込まれながらお母さんのところまで行くっていう、初めてのおつかい的な話なんだと思っていた。
まあその通りの話ではあるんだけど、雰囲気は事前の想像とだいぶ違う。

事前に予想していたのは、妄想と現実の線引きが分かりやすい映画。
スースク(2021)でのハーレークインの血飛沫→花びらとか、『ミッチェル家』や『なんだかおかしな物語』なんかの、画面上にイラストをコラージュする感じとか、それこそ『バービー』の、バービーランドから現実世界に行く道のりみたいな、分かりやすくファンタジーな世界。(←こんな感じのパートは今作にも一箇所あった)

でも今作は、明らかにおかしなことが起きているんだけど、どこまでが正常でどこからが異常なのか、その境目が分からない。
それはそれでかなり良い。というかめっちゃ良い。

そんで、この映画の何が良いって、ホアキンフェニックスがめっちゃ良かった!あの情けない顔!!
特にショックなことが起きたときに固まっちゃうのが可愛い。車のヘッドライトに照らされた野生動物みたいな感じ。
しかしこれを可愛い(≒かわいそう)と見るか、オドオドしやがってって感じでムカつくかは紙一重で、その二つの印象がぶつかるのが最後の裁判パート。
ただこの裁判では結構理不尽なことを言われていて、理不尽を前に固まって震えるしかできないボーは、その理不尽な言いがかりを「知らねーよ!」って突っぱねることができなかった。
悲しいね……ってなった。

めっちゃ安部公房っぽいなとも思った。
特に荒くれ者達に部屋を占領され、そんな自室を窓の外から眺めるしかできないシーンで強く感じた。
この、世界全体が自分を追い詰めてきて、自分のものがどんどん奪われて行って、それをただ間抜けな格好で見ていることしかできないっていう感覚はめっちゃ安部公房っぽいし、その中でも『壁』っぽい。どっちにも理不尽裁判シーンがあるし。
壁は本当に大好きなので、この話も同様に好き。

ただ、超面白くて最高の話で、「こんなに面白い映画ってあるんだ」とほとんど感動しながら見続けていたんだけど、最終的に全ての理不尽が母親の理不尽さとして回収されるのが残念だった。
母親に人生が飲み込まれるっていう恐怖は、そんなに自分ごととして感じられない。
そこまでは断トツで人生ベストの映画だと思っていただけに、その根本の部分に共感できず、「これは自分の映画だ!」って最後の最後で思えなくなっちゃったことが残念。

──その他、細かな感想。

・冒頭の出産シーンが怖すぎた。暗いしなんかゴソゴソいってるし。あ、そういえばこれホラーだったんだ。そんで俺はホラーが苦手だったんだ。と思い出した。

・他の映画では粗暴さの奥に潜む可愛らしさとかを見せていたけど、今作のドゥニメノーシェは怖い一辺倒だった。でかい男が錯乱してるの怖すぎんだよな。

・好きなシーンが多すぎる。
静かにしてるのに、隣人にうるせー!って手紙で言われ続けるシーン
荒くれ者達に占領された部屋を外から見つめるシーン(外から眺めるってのが重要)
車内で女子に1番怖い詰められ方するシーン
女子がペンキ飲んでぶっ倒れて、それを震えながら見てるシーン
演劇にのめり込みすぎて、劇の途中なのに勝手に続きを妄想するシーン(←これ俺も良くある)
他にも無限にある。

・全部お母さんのせいでした!ってネタバラシされるけど、しかしそれじゃ全然説明になってなくて、むしろ不条理さが増してるのが面白い。
大掛かりすぎん?
それに、お母さんが仕組んだってだけでは説明できないことも多すぎる。
未来の映像まで見れる監視カメラ映像とか。
象徴のレベルでは、この監視カメラ映像はのちの演劇シーンに掛かってるんだろうな。
あのシーンでは、自分の未来に思いを馳せた結果、自分の過去の不合理に直面し、自分が伝えられていた世界は嘘であるかもしれない可能性が出てきていた。
繁殖のサイクルによって過去と未来が繋がっている感覚。

・途中でA Thousand Milesが流れてテンション上がった。皮肉な使い方だけど、でもピッタリではある!

・『ミッドサマー』は微妙だったけど、これはマジで好き。
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