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ボーはおそれているのKのレビュー・感想・評価

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
4.6
いい意味で、とても気色悪い映画。

モヤっとするし、スカッとする…そんな映画だった。やっと観に行けた〜〜もう社会人になってしまったけど、ようやくこれで私の卒業論文が終わりました!これを観て感想を書くまで終われなかったので。

アリ・アスターの頭の中を覗いたようだったけど、4ヶ月間ホラー映画を見続け、ホラーに関する論文や書籍を読みこんでも100%理解出来るわけないくらい複雑だし意味が分からない作品だった。
それはそう、だってこれヤバいもん。笑


以下、ネタバレ考察あり↓



感想というか、ここが本当の"おわりに"のようなものというか。結論、答え合わせすぎた。怖いくらい私が卒論で考察したこととピッタリ合いすぎて。今作で、やっぱりアリ・アスターの根底にあるテーマは「毒親・毒母」であることが明確化されたように思えた。何よりも家族が1番の恐怖になり得るという事実、結局ヒトコワが最も恐れるべき恐怖ってこと。散々監視・観察され、母親という存在に抑圧された息子が母に手をかけてしまう事に対して、母親は被害者ヅラしてたし…平等な愛情って線引きが難しいよなとも思った。

これに加えて強く印象的だったのは「精神疾患」の描写。怖すぎるくらいリアルなボーの精神疾患がさ…発達障がいと作中で記事が映る場面があったけど、直接的にセリフでは言われてないんだよね。持ちうる限りのヒントは与えた、精神疾患かどうかは自分たちで想像しろ、ってこと…?まじで分からないけどそんな気がしてならない。どちらにせよ、ボーも何かしら患っている設定だろうし、母親も確実に精神病んでる。"愛情=執着=憎悪"であると同時に、過度な愛情を期待しすぎる母親像は、アリ・アスターの過去作ミュンハウゼンと繋がるものも感じたかなあ。

そして「父親不在」と「性への意識(象徴的去勢意識)」が要素としてはっきり描かれていること。母親が息子に対して性的意識を一切拒絶して育てていること。父親不在にしてまで、ね。ヒッチコックのサイコと、レザーフェイスの元ネタになった人の母子像がまんまこれ。(調べたら分かりますのでぜひ)私の推測はさほど間違っていなくて、これはもう…やっぱりアリ・アスターは歴代ホラーをよく観て研究して映画作ってるんだなと再認識させられた。てか多分シンプルにホラーマニアなんだよね、この人笑

そして今回追加された「第三者目線」。これはもう度肝抜かれたし、昨日ちょうどトゥルーマン・ショーの話をしていたから、タイムリーすぎて笑 そんなことある??くらいびっくりして変なところで1人笑いそうになった。結局彼の人生や行動は全て母親に仕組まれていたこと、ということだよね。母親から監視・管理して育てられて、中年になっても食事まで母親に実は管理されてたみたいな描写まで…なんでここでご飯ドアップ?って気になってたらしっかり伏線回収してきて、アリ・アスターやっぱ流石だなとしか言いようがなかった。

見ていくうちにボーが哀れにも思えるし、母親の異質さが際立っていくけど、実は周りの人もグルだったってのが結局1番ヤバいんだということだよな…。これ、最後のエンドロールまでがしっかり作品の1部だと思うんだけど、最後私たちスクリーン越しで観てる観客だけが「取り残される」んだよね。だから結局、私達もお金払って、哀れなボーを助けることなくただ見ているだけの傍観者の一味になってるということ。これもサイコのオマージュだったりして…観客を巻き込むホラー…至福だった。

シンプルにこわ〜って思ったのは、場面ごとに普通に地面に転がってる死体ね。話には関係無いんだけど、いかに観客の立場が「傍観者」であるかを強調している気がした。ボーが住んでたアパートの下もそうだし、屋根裏部屋にあったのもそう。よく分からない死体がそこら中にある事を不思議に思わないんだよね、登場人物たちは。それが普通な世の中ってことを言いたいのかな…?何かのメタファーかもしれないけれど。

と、言うことで面白かったけど観てるだけで運動するより疲れたし、圧倒的没入感だった。
アリ・アスターの掌で転がされていた、そんな3時間でした(総括)
K

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