MasaichiYaguchi

ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ 4K 完全無修正版のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.6
歌手、俳優、映画監督、小説家などマルチに活躍したセルジュ・ゲンズブールが、自らの大ヒットした同名楽曲を初監督して映画化した本作は、今観ても刺激的なので、公開当時は相当物議を醸したと思う。
コロナ禍でハリウッドの大作を中心に公開延期が続出しているが、その反面、30年以上前の映画がデジタルリマスターや、4K完全版又は無修正版で次々とリバイバル公開されて、再びスクリーンで観れる嬉しさがある。
物語はイタリア人のパドヴェンとポーランド人のクラスターが黄色いトラックにゴミを載せ、山の中のゴミ捨て場に運ぶところから幕を開ける。
この幕開けから本作にはディストピア的世界観、ゴミ、ゴミ捨て場、ハエ、カラス等、人が嫌悪するようなものがスクリーンを占めていく。
その後、彼らは通りすがりの若者たちとトラブルになった後、裏寂れたカフェに立ち寄るのだが、ここで短髪で少年かと見紛うような女ジョニーと出会う。
このジョニーを、当時のファッションアイコンでスター女優だったジェーン・バーキンが演じているのだが、正に「掃き溜めに鶴」という感じで圧倒的な美しさを感じさせる。
彼女は店主である高圧的なボリスにこき使われているのだが、他にこれといった仕事もない所なので、仕方なく従っている。
アメリカの西部の町を彷彿とさせる舞台設定になっているが、そこには暴力や権威が横行し、荒廃した管理社会を思わせる。
その閉塞感漂う世界で運命的に出会ったクラスターとジョニーの捻じれた愛の物語が、パドヴェンを交えた三角関係の中で繰り広げられる。
近年、LGBTQ映画は数多く公開されているが、本作が製作された1975年当時はタブーで、描かれたテーマや描写は衝撃的だったと思う。
基となった楽曲の「愛してる。あなたは?」と問うその歌詞の世界観を具現化した本作は、ゲイのカップルとユニセックスなカフェの女性店員が辿る刹那的なラブストーリーを通して儘ならない愛の世界を我々に垣間見せているような気がする。