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映画:フィッシュマンズのyoshinotsukudaのレビュー・感想・評価

映画:フィッシュマンズ(2021年製作の映画)
4.6
1度だけ、佐藤伸治のいるFishmansのライヴを日比谷野外音楽堂で観たことがあります。ちゃんと聴いたのは遅くて、あまりに評判が良すぎた『宇宙、日本、世田谷』が出たくらいでした。野音の客席は3分の2くらいまでしか埋まっていなくて、直前にチケットを買った自分の後ろは確か空席でしたが、その更に後ろの立見席の人たちがやたらと盛り上がっていました。

アンコール前だったかトイレに行った際、居心地が良かったので自分もそのまま立ち見席にいたら、すごく気持ちよさそうに動き回って踊る人たちがいて、少人数だけど完全にダンスフロア化していました。その時に、Fishmansの音楽はこんなに気持ちよく踊れる音楽なんだということに気づきました。

その時のライヴで、次の赤坂BLITZの『男たちの別れ』と題したライヴを最後に柏原譲が脱退する話をしていて、「来年の春頃から新生Fishmansでガンガンライヴやっていくんで、よろしく!」と佐藤伸治が元気に言っていたので、その通り来年を楽しみにしていました。

なので、その翌春頃、そろそろ新Fishmansが活動するかと思い、Fishmansを特によく聴いていた時期に、佐藤伸治の訃報を知りました。
今思えば、何故、『男たちの別れ』に行かなかったのか悔やまれるのですが、今は世界的名盤として評価されている『男たちの別れ』の特に最後の「Long Season」を聴いていると、もはやその先がない音楽に聴こえます。自分には究極の音楽の1つに思えるので、その先にどんな音楽を作るのか全く想像がつかないです。
32歳であそこまでやり切ったら、残りは余生しかないと思えたし、もっとリラックスした感じでやっていくことを期待していました。

佐藤伸治はあまりに神格化され過ぎてしまったり、その後のFishmansファンやフォロワーの、なんというか、ゆるふわ的なFishmans観に自分は馴染めなくて、距離を置くようになった時期もありましたが、コロナ禍の東京の空気にFishmansほど合う音楽はないんじゃないかと思うようになり、再びよく聴くようになっていました。

3時間弱ある『映画:フィッシュマンズ』は、正確には「佐藤伸治とフィッシュマンズ」というタイトルのほうがしっくりきます。主人公が不在であるからこその強い存在感が感じられます。
誰が言っていたか忘れましたが、佐藤伸治は究極的には「無音を鳴らす」ことを目標としていた、という話を聞いた記憶があります。そういう意味で、佐藤伸治は亡くなることで、結果として最高の「無音を鳴らし続けている」という目標を達成してしまった気がします。亡くなってからの方が、20年以上経過しても尚、海外も含めて人気も評価も圧倒的に高いのは、つまり佐藤伸治の「無音が鳴り響いている」からなんじゃないかと思います。
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