空海花

茜色に焼かれるの空海花のレビュー・感想・評価

茜色に焼かれる(2021年製作の映画)
4.2
石井裕也監督作。
尾野真千子、戦うことが、彼女の愛か。

思い返せば返すほど、よくできているなと思った。

「田中良子は芝居が得意だ」

7年前、理不尽な交通事故で夫を亡くした良子と中学生の息子・純平。
交通事故の表現が、過去にあった事件を想起させる。
彼女らに降りかかる理不尽はそれだけではない。
時々現れる金額のテロップや
親子ともする貧乏ゆすり。
真っ赤な家計簿。
お金に関わることも至るところに現れる。

これは怒りの詰まった映画だ。
実際、映画の半分くらい(あくまで体感だが)の時間は
彼女たち以外の登場人物に腹が立って仕方がなかった。
流れるのは、たぶんこれは悔し涙だ。

彼女の行動に理解できない、感情移入できない人もいるかもしれない。
でも、理不尽な出来事に襲われた時
絶望せずに生きていくには、
自分が頼りだ。
自分らしく生きるしかない。

神様なんていない、と思わされることもある。
息子には父から沢山の本が残された。
神様っていっぱいいる、という母の話が
私にはしっくり来た。
あぁ、この映画には宗教は出てきませんので苦手な方はご安心を。

こう書くとすごく重々しい印象を受けると思うが
尾野真千子の前向きさがあったりとか
息子役の和田庵の素直さがその空気を和らげる。
また、片山祐希が演じるケイちゃんの存在は、親子の心にろうそくのように灯る。

良子は花屋で働いていて、また花が出てきた🌷
この使い方もとても良かった。
ケイちゃんへの花。
良子が込めた気持ち。

苦しい中、それをあえて
口に出さないままでいること。
日本の今こそ、わかる部分は多いのではないかと思う。
と言って好みは分かれるかもしれない。

他人がとやかく言おうと、
これが彼女の流儀。
ヤクザ役の永瀬正敏がヤクザの流儀で話を付けるように。
格差の間を弁護士の流儀が歩く。

茜色の空、やっぱり日本の空が1番馴染むなぁと思うと同時に
なかなか暗くならない空
それはいつまでも広がっていくのか。

勝負服、彼女の不思議な行動、
その時はどうかなとも思うのに
救いなんてなく、戦いは続く
それなのに、なぜか鑑賞後、
私は元気をもらえていたのだ。
これは尾野真千子の芝居の魂からだと思う。


2021レビュー#106
2021鑑賞No.198/劇場鑑賞#14
空海花

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