石井裕也監督作。
尾野真千子、戦うことが、彼女の愛か。
思い返せば返すほど、よくできているなと思った。
「田中良子は芝居が得意だ」
7年前、理不尽な交通事故で夫を亡くした良子と中学生の息子・純平。
交通事故の表現が、過去にあった事件を想起させる。
彼女らに降りかかる理不尽はそれだけではない。
時々現れる金額のテロップや
親子ともする貧乏ゆすり。
真っ赤な家計簿。
お金に関わることも至るところに現れる。
これは怒りの詰まった映画だ。
実際、映画の半分くらい(あくまで体感だが)の時間は
彼女たち以外の登場人物に腹が立って仕方がなかった。
流れるのは、たぶんこれは悔し涙だ。
彼女の行動に理解できない、感情移入できない人もいるかもしれない。
でも、理不尽な出来事に襲われた時
絶望せずに生きていくには、
自分が頼りだ。
自分らしく生きるしかない。
神様なんていない、と思わされることもある。
息子には父から沢山の本が残された。
神様っていっぱいいる、という母の話が
私にはしっくり来た。
あぁ、この映画には宗教は出てきませんので苦手な方はご安心を。
こう書くとすごく重々しい印象を受けると思うが
尾野真千子の前向きさがあったりとか
息子役の和田庵の素直さがその空気を和らげる。
また、片山祐希が演じるケイちゃんの存在は、親子の心にろうそくのように灯る。
良子は花屋で働いていて、また花が出てきた🌷
この使い方もとても良かった。
ケイちゃんへの花。
良子が込めた気持ち。
苦しい中、それをあえて
口に出さないままでいること。
日本の今こそ、わかる部分は多いのではないかと思う。
と言って好みは分かれるかもしれない。
他人がとやかく言おうと、
これが彼女の流儀。
ヤクザ役の永瀬正敏がヤクザの流儀で話を付けるように。
格差の間を弁護士の流儀が歩く。
茜色の空、やっぱり日本の空が1番馴染むなぁと思うと同時に
なかなか暗くならない空
それはいつまでも広がっていくのか。
勝負服、彼女の不思議な行動、
その時はどうかなとも思うのに
救いなんてなく、戦いは続く
それなのに、なぜか鑑賞後、
私は元気をもらえていたのだ。
これは尾野真千子の芝居の魂からだと思う。
2021レビュー#106
2021鑑賞No.198/劇場鑑賞#14