みかんぼうや

茜色に焼かれるのみかんぼうやのレビュー・感想・評価

茜色に焼かれる(2021年製作の映画)
3.4
非常に深い母と息子の絆を描いた号泣物の感動作にもなりそうな作品なのですが(予告からもそれを期待したのですが)、さすがにこれはやり過ぎ。リアリティを期待したいテーマと内容だけに、そのやり過ぎな内容がかえって作品をアンリアリスティックにしてしまっていて、物凄くいいヒューマンドラマになるポテンシャルがあるのに、作品そのものに没入できず、最後まで距離感が空いたまま客観的に観てしまいました。結果として、その味のあるヒューマンドラマが本領発揮できていないように感じてしまいました。

というのも、本作、主人公の周りであまりにも人生の不幸が連続して起こりすぎ。そして周りの人物たちはほぼ嫌なヤツばかり。この世の中、こんなに嫌な人間ばかりでしょうか?これだけ一極集中で不幸が重なるでしょうか?

これだけでも非現実的な印象を持つのに、やけに税金の話ばかりする不良高校生(高校生の頃に、税金に対する意識なんてあるかな?)をはじめ、台詞や演出もやけに不自然なものが多い。この作品全体に感じる違和感は、同じく石井監督の「夜空はいつでも最高密度の青色だ」に通ずるものがあります。どちらも全体的に作られた不自然な感じ。

石井監督は「舟を編む」や「ぼくたちの家族」が好きな作品だけに、自分の中で当たり外れが大きい監督、という印象です。

本当はもっと厳しめの点数にするつもりでしたが、尾野真千子の腕っぷしのいいなんとも力強い演技と、永瀬正敏の渋さ(このキャラも後半キャラ振れして不自然な感じは否めませんでしたが)、そしてラスト手前の茜色の空をバックにした自転車シーンがとても素敵だったので、この点数にしました。

ですので、作品そのものを楽しんだというよりも、尾野真千子を中心とした演技を楽しむ作品だったのかな、と思います。

ちなみに、昔からの知り合いが、某“ウジ虫”役で出演していることに気づきビックリ。なんとも憎たらしい素晴らしい演技でした!
みかんぼうや

みかんぼうや