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YESデー ~ダメって言っちゃダメな日~のLCのレビュー・感想・評価

3.5
面白かった。

母親に目が行きやすい場面が多いのかな、と思ったけど、ちゃんと家族を構成するひとりひとりの問題点を描き出していた。

母親が、作中で言う「悪役」として機能するからこそ、他の構成員があぐらをかける部分は確かにあって、そのことにまず向き合う機会を父親が持ったり、腹を決めた先で発生するトラブルを経て子ども達がきちんと「行動の結果」を突き付けられたり、何だかんだで事態の収集を図り子を救う為に闘うのはやっぱり親だったり、当たり前に受け入れられる物事をできる限り賑やかに描いている印象。
ただ、当たり前に受け入れられる物事だからこそ安心して見られるんだけど、それがかえって「当然なので意外性なし」と受け止められ、結果面白味の薄さを感じさせる部分はあるかもしれない。

守る意識の増幅が「独裁者」の姿と重なるのは、「私は守る立場なので当然」という主張に繋がるところも含めて、とても自然に感じられる。守る意識がそのまま、言い分を聞いてもくれない支配として他者の目に映る。そしてこれは的外れとも言い難い。
親の存在があるからこそ生きていける立場の子には、「力関係」で敵わないことがたくさんある。親はコントロールしなければならないことがあって、そうするとどうしても支配というものと切り離せない対応は出てくる。
そうすると、子は親の注意を素直に聞きたくない気持ちが増幅していくわけで、ますます両者の気持ちはすれ違う。

一方が子に嫌われるなら、もう一方が子の支持を得ることは簡単で、つまりは優しい理解者として存在すれば、向き合わなければならない面倒事はサクッと押し付けることができる。
嫌われたくないのはみんな同じなんだけど、嫌われてくれる人がいる時、共にその荷を背負おうとするよりは、日和見的に自分の保身を優先する。そんな姿もまた、自然に映る。
子にも妻にも嫌われたくなかったんだよね、ただでさえ職場では友好的な関係を他者と築けずにいたのなら、尚更。「仕事で疲れてるんだ」という台詞ってよく聞くけど、まさにそれなわけだよね。仕事で疲れてるんだ、はよご飯作って、テレビ見ながら待ってるから。あはは、このアニメ面白い、なあ息子よ。やっぱりヒーローアニメは最高だよな。ご飯まだかなあ。

そして子に必要なのは「実体験」であるわけなんだけれど、結果を突き付けられた時に、私が何も心配せずに見られたのは、見放さない親だということがずっと描かれ続けているから。当たり前に感じられるけれど、実は当たり前じゃない、とても大切な点だったと思う。

反抗はするものなんだよ、それは成長過程において普通なことなんだけど、「お前は反抗したじゃないか、だから助けないよ」という姿勢を示す親は、想像以上に多い印象。「だから言ったじゃん」と、親が子を冷笑する。
そういう親だと、子はその痛みがどれだけ「些細か」を確かめることから逃れられなくなるケースが割とあったりする。わかりやすく言うと、自滅行為を繰り返したり。
初対面の男性たちとテントに入ることを断った彼女は、ちゃんと助けに来てくれる親がいるからこそ、この先自身の性を犠牲にして「精神的な痛みを誤魔化し続ける」ことはしなくて済みそう、という安心感。
アホ程アイス食べて「食べ過ぎるとつれぇわ…」と体で理解することって結構大切だと思うけど、そういうものばかりでもない。
特に性に関する初体験は「大切にされない」程、その後性を売る仕事に就きやすいとも言われている。大切にされなかった痛みを誤魔化し続ける為に。それくらい、何十年も、或いは死ぬまで癒えない痛みとなる。
娘の未来を大きく左右する危険が潜んでいることを、母親だからこそ察知できたし、そりゃあ守りたくて当然だ。「なあんだ、セックス怖いんだ、あんた、遅れてるね、ダサいわ」的な同年代の同性からの圧力って半端なかったりするし。

他人の家で破壊的などんちゃん騒ぎをするのって、実は現実でもあって、あまりにも酷くてニュースになった事例もあったりする。
息子の言葉は、誰の破壊行動も止められなかった。彼が親に怒られても他の子には関係ないし、小さな彼は最悪手を上げてきても強くないから怖くない。
そこに、誰よりも大きい父親が、誰よりも声を大きくして立ってくれた。男性だからこその体の大きさや力の強さは、子ども達にとっては敵わないものなので、途端におとなしく言うことを聞く。
それって確かにかっこよさのひとつなんだよね。混乱の中自分が侮られて困っている時に、混乱を鎮めて相手を牽制してくれる強さ、迫力。
たぶん息子さんは、家で1番のトラブルメーカーという自覚があったかもしれない。だから、他の子も自分と同程度の騒ぎ方をするんだろう、くらいの、軽い見通し。
他者が秘めた、暴走する可能性の無限さに、絶望した部分もあったりしたのかな。

Arepa de Pabellón (作中ではアレパ・パベロン、真ん中のデを抜く表現をしていた)とは、確かベネズエラのお料理。
牛の挽肉と、お豆と、揚げたバナナをトウモロコシの生地で包んだ食べ物。
私は果物全般が苦手なのだけれど、揚げたバナナって割と食べやすかった記憶がある。東南アジアのどこかで挑戦した時に、苦手な食べ物って一工夫で食べられるようになったりするんだ、不思議過ぎるぜ、と感動した。熱さにやられてたんじゃない?それはそうかも。
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