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ヘカテ デジタルリマスター版のmayaのレビュー・感想・評価

4.4
モロッコで外交官が美女と出会う!と聞いて大分覚悟して観たのですが、ダニエルシュミット御大、マリアカラス様に狂ってただけあってさすが、ファムファタールを鑑賞する映画というより、完全に自分の中でファムファタールを作り出しちゃってとち狂う男を鑑賞して、身に覚えのある男性陣が頭抱える映画です。ところどころ入るロシェルの「カサブランカ」みたいな妄想、まじでモロッコ去る時まで本気でクロチルドが追いかけてくると思ってるの、人間の解像度低すぎてめちゃくちゃサムいし御大おそらく自虐ネタのコメディパートとして描いてない?

クロチルドが「女ではない」と答えたのも、「男の台詞」を男相手に言い放つのも、正直抱かれてるのは完全にロシェルなのも、女性の視点から見るとめちゃくちゃ理解できる。結局ファムファタールなんて男が勝手に女に押し付けるドラマじみた滑稽な妄想で、女だって現実に生きる人間なんだよ、と思ってみると、彼女がアメリカ人で、最後に英語で話し、モロッコの人たちとフラットに接していたことがしっくりくる。自立した女性が個人として存在していることを認められずに結局最後の最後までごっこ遊びしかできなかったロシェルとは対極に、彼の胸元から花を奪って去るクロチルドの颯爽としたカッコ良さよ。妖艶ではなくハンサムなのが、ありがとう御大!って両手を挙げたくなるポイント。シベリアでしおしおの男二人が傷を舐め合うセジウィック構造かまそうとして盛大にみっともない絵面になってるの、もうかわいそうだったよ、、。クロチルドからしたらそりゃ「勝手にやってろ、私が行くわけないじゃん」になるでしょ...
最初は「エゴイスト」とか言って哲学者ぶってるロシェルがだんだん余裕がなくなっていき、片やクロチルドがアラブ語を習得し会話しているモロッコ人たちを「汚いやつら」と罵るところで、彼が差別主義者で、古い西欧的な思考に囚われていることが判明してしまうし、その時点でクロチルドを「女」としか見れないことも、故に愛を理解することも得ることも絶対できないのも明白になってしまうよね。

本作、王谷晶さんが寄せたコメントが良すぎて観ることにしたのだが、フライヤーに男性の映画評論家が寄せてる「求め合う男女が大きな喜びを享受するのは服を着たまま男が女を後ろから抱擁する時」って書いてあったんだけど、本当にちゃんと映画観たのか心配だよ...最初から最後までクロチルド側からは一切求めてもらえないのがこの映画の萌えポイントだし、そこ、ド派手な洋楽がかかってめっちゃ笑うとこだったじゃん...クロチルドは全く感じてないのにロシェルが一人で犬みたいに腰振ってて超マヌケなシーンなんですが...もしかして本作を「男と女のメロドラマ」だと思ってらっしゃるなら大間違いなんだけど、どうなんでしょう。ポスターはめちゃくちゃ良かった。
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