great兄やん

ヘカテ デジタルリマスター版のgreat兄やんのレビュー・感想・評価

3.8
【一言で言うと】
「泡沫の“愛撫”」

[あらすじ]
北アフリカに赴任した仏外交官の青年はレセプションで出会った美貌の人妻の虜となるが、彼女は欲望の赴くままに生きる魔性の女。その謎めいた言動に振り回されるうち、熱い嫉妬の思いに彼の胸は焦がされ、そして...。

激しく荒ぶる“雄”を、優しく宥める“女神”ーーー。

ポスタービジュアルに惹かれ鑑賞。

まさしく“魔性の女”という表現をそっくりそのまま具現化したような映画でしたね🤔
ダニエル・シュミット作品は初めてなので、あんまりどういった作品を撮る人だとかは分かんないけど、個人的にはかなり好きな監督さんかもしれない☺️

全体に広がるザラついた艶かしい映像美といいますか...薄々気づいてはいたけど、自分はこういう“映像で語る映画”に惹かれやすい体質なのかもしれない。
...まぁそんな体質あると言えば嘘になるんだろうけど(^◇^;)

とにかく全体に彩られる蠱惑的で、退廃的な映像美にただただ呆然と見惚れるばかり。
画面から蒸せ返りそうなほどの熱気といい、一歩気を抜けば引き摺り込まれそうな暗闇の魔力といい、まるで人を惑わす魔窟に紛れ込んだかのようなシーンの数々。
主人公がモロッコでの灼熱と嫉妬に焦燥感を抱く表現力はまさに唯一無二だと感じましたね。

それにベルナール・ジロドーとローレン・ハットンの情熱溢れる演技力も流石ですし、特にローレン・ハットン演じるクロチルドの存在感はまさに絶品そのもの。
ただ存在するだけで相手を惑わせ、その気がないのに恋の磁力に誘われてしまうようなあの妖艶さは、まさに彼女ならではの魅力が漏れ出てました。
あのバルコニーでのラブシーンよ...全部脱がしてるわけでもないのに余計エロスが強調されている所が憎たらしいほどセンス良いんですよね〜...

それからあのDiorことクリスティアン・ディオール自身が手がけた衣装といい、まるでルキノ・ヴィスコンティ作品のような、果てしない高級感にただ身を委ねてしまうような秀作でした。

ベルナール・ジロドー演じる主人公があまりにも高圧的で幼稚臭いキャラクターだったのが少し残念ですが、それ程あのクロチルドに恋焦がれていたって事なんでしょうね😔

“わたし”が“あなた”の名前を叫んでも、“あなた”は“わたし”の名前を一切呼ばない。

身を、そして心を惑わし、焦がすだけ。

その姿はまさに冥界から闖入した“女神”そのもの。

思考は要らない。ただ、己の欲望を弄ぶだけなのだから...


観た者は誰もがその世界観を独占し、秘匿したがると言われる彼の作品群ですが、その気持ちも分からなくもないですね。

まさしく自分も、この“ヘカテ”のように既に美の幻想に貪られているのでしょう...