シズヲ

アミューズメント・パークのシズヲのレビュー・感想・評価

アミューズメント・パーク(1973年製作の映画)
3.8
「何も……何も無いんだ」

ジョージ・A・ロメロ監督が教会の依頼によって撮影し、そのまま長年お蔵入りになった幻の作品。当時米国で社会問題となっていた高齢者虐待を取り上げた作品で、ご丁寧に主演俳優が冒頭から直接的にテーマの説明までしてくれる。本当に教育的な啓蒙映画として作られていたことがよく分かるが、本編が始まってからは一気に怪異譚へと突入。映画は一人の老人を通じて社会の縮図を描いた悪夢的寓話と化す。生き生きとしていた老人が理不尽に蹂躙されていき、次第に貧相に衰えていくさまは最早『泳ぐひと』のバート・ランカスターの領域。

冒頭で本作の主旨は概ね解説されるだけに風刺も終始直球で、少々分かりづらい場面がちらほらあっても言いたいことは大体伝わってくる。ちょっと乱暴な気もするが十分怖い。遊園地のけたたましい音楽や喧騒の不協和音ぶりは半ばカオスめいており、そんな雑多な不快感に満ちた世界が老人の前に不条理として立ちはだかる。“低所得の高齢者”であるが故に人々から疎外され、無関心ゆえの暴力性に嬲られ、人としての信頼さえも得られずに独り彷徨い続ける。

描写的に過剰ではあってもそれ故に怪異譚として成立しているので、却って異常なシチュエーションの不気味さが際立っている。高齢者施設に放り込まれる場面の不気味な臨場感に満ちたカメラワーク、カップルの未来を覗くシーンの強烈な不安と焦燥が印象的。語り口に経済格差や貧困のウェイトがかなり大きい辺りに今も通じる恐ろしさがある。冒頭や序盤であんなハキハキしていた老人が終盤には惨めに泣きじゃくり、次の老人を経て何度でも繰り返していく。「あなたもいつかは老いる」「今からでも行動してほしい」直球の解説に乗っかり過ぎてる節はあるが、確かに啓蒙のための作品なのだなあ(いやまあ不条理だけど)。

過激というよりはシュールな映画で、教育的どころか殆ど不条理劇めいている。ショッキングというか直球でグッタリさせられる。なんだかカルトムービー的な雰囲気が漂うが、そもそも啓蒙映画としてこれをお出ししてきたロメロ監督の尖りっぷりにフフってなる。
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