なお

アミューズメント・パークのなおのレビュー・感想・評価

アミューズメント・パーク(1973年製作の映画)
3.6
「遊園地で老人が罵られ、大変な目にあう。」
なんだそのあらすじ…

しかし、本作の内容をこれほど的確に、かつ端的に表現できる文章はこれ以上存在しないと思う。

ゾンビ映画の巨匠、ジョージ・A・ロメロが、生涯で唯一制作した職務著作作品。
年齢差別や高齢者虐待といった社会問題に対する教育映画という位置付けで制作されたが、そのあまりのセンセーショナルな内容に長らく封印された作品となっていた。

ロメロが逝去した2017年に16mmフィルムが発見され、4K修復作業が行われた。
その後2019年には、本作の撮影地であるピッツバーグでプレミア上映を開催。
それを皮切りに各国でもサブスク配信がスタートし、日本では2021年6月に劇場公開が成された。

✏️外の世界には何もない。何も
怖い。ただただ怖い。
いつの日にか自分にも、外界という名の遊園地から自宅に帰ってきて、「楽しくない」と言葉にする日が来るんじゃないかと。

前述のような経緯を経て劇場公開やサブスク配信されているため、アマプラではコピーライトの西暦が「2020」となっているが、映像自体は紛れもなく1970年代に撮影されたものであり、「70年代風」に加工している映像ではない。

若干ノイズのかかった音声。色褪せの隠せない映像。
もうこれだけでおどろおどろしさギガMAXなんですが、その上で行われる老人への「罵り」。

「罵り」といってもバカだのアホだの死ねだの直接的な罵倒があるわけではない。
ここで老人が受けるのは「社会からの」罵りなのだ。

外界、つまり我々が普段暮らしている外の世界とは、いわばアミューズメント・パーク。遊園地だ。
お金さえ払えば美味しいものを食べられるし、映画館で楽しい映画を見たりできる。

車やバイクがあればもっといい。
歩いたり走ったりするよりも短時間で遠くに行って、普通なら目にできない景色や、体験できないことをできたりする。

でもそれをするには条件がある。それは「体も心も」健康であること。
若いうちはいい。でも体と心がだんだんと衰えてくる老人になってしまったら…?

本作を見て思うに、人の生きる力や気力を奪う要因とは「無力感」だ。
自分には何もできない、自分は何の役にも立っていない…と自覚した瞬間、人の生きる力はみるみる減っていくんだと思う。

本作に登場する「遊園地」には数多の老人が登場するが、そのほとんどが大多数の客(=子どもや若者)から無視されたり不当な扱いを受けたり、蔑ろにされていたりする。

「外の世界にはいいことがありますよ」
そう言っていたあの老人も、「遊園地」に繰り出して世の中の不当な扱いを受ける中で、まるで別人かのように衰弱していく。
無視、差別、暴力、略奪。この繰り返し。

あの「遊園地」とは、まさに社会の縮図だ。
楽しいことにまみれたように見える外の世界だが、それはあのアトラクションを楽しめる人だけ。
そうでない人、つまり本作における老人たちはただじっとベンチに座ってこの遊園地の閉園まで時をやり過ごさねばならない。

本来楽しいだけの空間である「遊園地」をこの残酷な社会に見立て、わずか1時間足らずで惨たらしいまでのリアリティを持って年齢差別や高齢者虐待という社会問題への警鐘を鳴らす。
ロメロ監督の手腕はゾンビ映画以外でも一級品のようだ。

☑️まとめ
自分の評価点ルールの特性上高得点にこそならないが、得点以上の価値と魅力を持つサイコ・スリラー作品。
たしかにこれは封印作品になるのもわかる。

しかしこの現代にも通ずる社会問題を、既に半世紀以上も前に映画として作り上げたロメロ監督の慧眼と先見性と来たら。

特に日本は超・少子高齢化社会。
いずれこの「遊園地」のお客は若者より高齢者の数の方が多くなるだろう。

その時「遊園地」はどうなってしまうのだろう?
子どもや若いカップルたちの黄色い歓声は聞こえてくるのだろうか?
そして自分が老人になって「遊園地」に出かけたとき、どのように振る舞い、自宅に帰って何を思うのだろう?

不安、不安、不安───。
普段はそっとフタを閉じて心の奥底にしまっている、自分の「不安のタネ」を芽吹かせるには十分すぎる内容だった。

<作品スコア>
😂笑 い:★★★☆☆
😲驚 き:★★★★☆
🥲感 動:★★★☆☆
📖物 語:★★★★★
🏃‍♂️テンポ:★★★★☆

🎬2024年鑑賞数:4(1)
※カッコ内は劇場鑑賞数
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