乙郎さん

彼女が好きなものはの乙郎さんのレビュー・感想・評価

彼女が好きなものは(2021年製作の映画)
4.5
信頼している人が誉めていたので鑑賞。とても良かった。紋切り型の評し方を許さないような、自分の言葉で語らなくてはいけない気持ちにさせられるかたちの作品。

まず、始まり方がいかにもな日本の青春映画といったかたちで、王家衛を引用するようなポップさもある。湿っぽさは控えめ。ただ、この時点で設定が語られ終わっており、「おい、ということは…」という具合に悲劇を予感させる。このバランスがファンタジーと現実との差異というテーマに非常に合致している。極端な悪人がいないが故の悲劇を映し出す。例えば、この作品で何度も語られる通りBLはファンタジーかもしれないけど、少なくとも今の時点ではゲイが当たり前に登場するアメリカのコメディみたいなものもファンタジー。私は、この描き方は誠実だと感じた。一足飛びでファンタジーには行けないとすれば、まず現在いるところを描く他ないのではと。

最後になったが、人物の関係性を描く際に間に障壁物を配置するとか、切り返しで登場人物間の距離感を演出するとか、そういった技術も素晴らしく、またそれが物語やテーマを邪魔しない程度にさりげないのも好感を持った。
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