⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎のSQURのネタバレレビュー・内容・結末

「沙代は”どうして”救われることができなかったのか？」ということが、どうにも気になった。しきたりによって生活を支配されていた少女が、その抑圧に対する反抗として、支配者たちを虐殺していく。暴力的抗議の報いは、本作の中でも沙代に対してもしっかり与えられる。一方で、疑似恋愛的な関係を持って、非暴力的に村から脱出しようとするが、それは物語において許容されない。
水木自身の「自分も利用しようとしていたところがあった」という謝罪は誠実なものと言えるだろう。しかし、一歩足りない。例えば、もう少しゆっくり話し合ったり、触れ合ったりすれば、乗り越えられたかもしれない障害だったのに。
物語の中ではそのような対話とケアの関係による解決がなぜかいつも許されない。その制約は水木が年上の男性で、沙代が若い女性であることとも無縁ではないだろう。抑圧からの解放は権力者からの庇護によってなされてはいけないのだ。そうなるくらいであれば悲劇で終わったほうが美談なのだろうとは思うが、そろそろ違った解決策が欲しいなとも思う。物語外部にある社会的な制約を、物語の内部における登場人物たちは如何にして乗り越え、ケアの関係を築くことができるのだろうか。

エンドクレジット後の映像は、個人的にはやや不満で、そこまでの物語を通してみると感激するシーンに違いないのだが、漫画のほうを思うと、鬼太郎を殺さなかった選択に対して本作は説明過剰のように思われ、漫画の味わいが死んでしまった気がする。