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⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎のCinemanのレビュー・感想・評価

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
1.3
近年、日本の敗戦後という時代をよく知らないまま、イメージをなぞる作品が頻発していて恐怖を感じる。
枚挙にいとまがないが、ごく最近のものでも、ゴジラ-1.0、君たちはどう生きるか(あれは「原作」のイギリスの大戦期を丸々置き換えただけという別種の酷さもあったなあ...)ですら...

水木先生への敬意を全く感じなかった。この創作者は、水木先生の生んだ妖怪の原点のスピリットを全く理解していないのではないか。
戦中の経験が、先住民の人々の語る精神世界や物的世界以外の精神性を、豊かさを人間性への一縷の望みとして妖怪に繋いだ...水木先生の戦争体験と妖怪とは、そういう深さのもの。

戦争で上官がどうの、裏切りだ..という個々のことだけが人生の指針になるようなものではない。

キャラクター化というか..歌舞伎じゃないが、見栄を切る場面が何箇所か決まってて、そこに向かってストーリーが走っていくというだけで、人物像というものはない。
「因習村」とかいうジャンルができているらしいが、エンタメにする前に、『楢山節考』やら『奇子』やら『キリヒト讃歌』やら(手塚ファンです)一度見てみなさいと言いたくなる。
葬式の場で、同じ顔して目を向いてる親族とかいう一枚岩の戯画化なんかで語れるものでもない。もっと入り組んだ社会制度と人間関係の果てにある人間の関係性だというのに..
第一、村の因習というのは、戦前日本の階級社会制度を炙り出すものなのだから、対比となる村の人々の生き様も見えないと、とても表層的になる。

所々、1950sというより、明治か大正か??というような解釈の部分も...。1950sの人間に見えない。
外見も、喋りもだが、致命的に行動原理や決断や精神性が全く現在。

そして、女性の存在が皆無。みんな単純に加害者か、弱いものか、生む性か。このペラペラさが、「水木」を余計に偽善者にしか見せていない。
こんな描写なら、むしろ主人公に水木という思わせぶりな名前をつけてほしくなかった。かえって、水木氏を利用して、貶めているとしか思えない。
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