星はつけないヌル夫

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎の星はつけないヌル夫のネタバレレビュー・内容・結末

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

途中まで「まあ、よくある横溝ミステリ風展開かな…」と、確かによくできてるけど正直期待してたほどじゃないかなと思って観てた。

が、真相が明らかになりだすと、うわー…そうだったのか…酷いよ惨いよ辛いよ…となるエピソードの連続だし、穴倉最深部に入って、とっつぁん坊や(?)時貞登場からはもう悪行のスケールと業の深さがひどくてもう、うわあ…ここまで利己心と欲望の塊なキャラを登場させていいのか…すげぇと思ってたし
ラスト、水木が哭倉村での記憶を失ってエンドロールで、原作の鬼太郎誕生ストーリーのシーンが再現されてるのを見て「あ!ストーリー的に完全にパラレルでないとあり得ないと思ってたけど、そこでちゃんと原作とつなげてくるんだ!なるほど!」って膝を打った。
なるほど…水木が鬼太郎を育てたのは、微かに残ったゲゲ郎との記憶の断片がなせるわざだった…という解釈ね…このラスト好きだわ…
という感じで、徐々に盛り上げつつ終盤から一気にスクリーンに引き込まれて目が離せなくなる映画でしたね。

あと、水木が厭世的かつ上昇志向もある人物で、全然善良な主人公じゃないところもよかった。沙代に惚れるような純粋さはなく、むしろ利用してやろうとしか考えていなかったが、真相を知ってからは本気で村から連れ出してやらねばと思える程度には人間味があるというバランスが良い…
しかし「もういいじゃん凶骨開放してこんな国滅んじまえばいいよ」って言ってしまえるぐらいには、人の醜さに嫌気がさしている水木。ゲゲ郎もあれだけの事をされて人間に肩入れする義理なんてろくに無いはずだから、ひとつ間違えばあの場で人類滅んでもおかしくなかったけど、ゲゲ郎は近々生まれてくる我が子に希望ある未来を遺したいという気持ちから狂骨から命がけで人間を守る選択をする。あと、この選択は「鬼太郎の母、岩子が人間を愛していた」というのが大きく影響していると思う。岩子が人間を愛していたから、岩子を愛するゲゲ郎は人間のために自己犠牲をするし、そのゲゲ郎の行為をみて厭世気質の水木も「ゲゲ郎が守った世界を、息子にみせてやらねば」と鬼太郎を育てる決意をする。(多分正確な記憶は失っているので、この行動はあくまでその朧気な思いが無意識下で作用したみたいな感じだと思っている)。この連鎖がね…すごく良いと思いました。こんな出生の秘密を背負っていたら、鬼太郎は逆に人間のことを忌み嫌っていてもおかしくないのに、人を助ける妖怪になる…っていうのがこの連鎖のどこかが切れていたら実現しなかった奇跡だなあ…。