なしの木

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎のなしの木のネタバレレビュー・内容・結末

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

2回目観ました。オタクの長い長い感想を読んでも良いよって方のみどうぞ。おおよそ映画の流れに沿って書いてます。勝手にシーン事に簡単な題をつけてます。あとXをTwitterって言ってます。




導入
血液銀行の社長室のシーンから水木の乗っている夜行電車に切り替わるところで、頂天眼が画面左上に浮かんだままになっていた。赤い空に浮かぶ不気味な金魚とその下を走る列車の影がこれから妖の世界へ向かうのだという事を分からせてくれて非常に良かった。

水木の発音
イントネーションが違くないか?と思ったら映画の発音は水木しげる先生がご自身を指すとき使ったイントネーションだと御息女がツイートされていて納得した。

アニメーション
最初だけぬるぬる動く水木が気になった。哭倉トンネルを抜けてから、森の中を歩いて集落へ向かうシーンでは、歩く速度とアニメーションがタイミングが合っていないように見えた。

背景
背景がとても好き。ファンタジック過ぎず、リアル過ぎず、日本の風景をこのような形で残してくれたことに感謝。
くたびれた木の電信柱、畔がまっすぐではない田んぼ、舗装されていない道、道沿いの鮮やかな花々、田舎の描写が好きだった。

鼻緒
履物の鼻緒を直すという時代劇では何百回も見たシーン。水木が持ち歩いてるのはハンカチではなく裂ける手拭いであることがわかる。喪服姿の沙代ちゃんが美しい。

よそ者
水木が時ちゃんと出会った場面で、時ちゃんが「みんなよそ者が来ていると言ってる」と言ったとき、水木の後ろにある小屋にピントがあって村人たちが水木を暗いところから監視しているうまい表現だなと感じた。
水木のアウェイ感がツボ。
豪華なお座敷のシーンや裏鬼道衆に囲まれるシーンそんな事では折れない強さが良い。

龍賀の女たち
長女:乙米、次女:丙江、三女: 庚子
ひのえって丙午のひのえ?ってググったら十二支とセットで十干てのがあるのね。勉強になりました。

十干(じっかん)は、甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸の10の要素からなる集合。干支を書くとき干を支の前に書くことから天干(てんかん)とも言う。(Wikipediaより)

それぞれ交互に陰陽が割り振られていて

陽:甲、丙、戊、庚、壬
陰:乙、丁、己、辛、癸

乙米は隠の1番目、丙江は陽の2番目、この順番だと三女は隠の3番目である己を使った名前になりそうだけど陽の4番目である庚が使われてる。この時代だと亡くなる子も多かっただろうからもしかしたら間にもう1人女子がいたのかもと思わせる設定。

時麿
とても不気味&外道。外道のエリート。気持ち悪い。ある意味気の毒なんだけど、救いようがないし、救いがない。

不審者
裏鬼道衆に連れてこられた男を庇った、水木の善性は救いであると感じた。だが、この時点で、彼はまだ水木のことを信用したわけではなかった。

ゲゲ郎
鬼太郎の父親が水木にその名を名乗らなかったことや、妻の名を明かさなかった事については真名知られると言うことを恐れたと言う解釈もできるのではないかと思った。水木が自ら名付けると言う形で真名を隠すと言う手法はうまいなと感じた。

座敷牢
水木がゲゲ郎に村へ来た理由を訊ねるシーンでは、水木の視点では、ゲゲ郎の素性や性格を推し量っていたように見える。しかしゲゲ郎からは水木が信用に足る人間であるかどうかを試していたように見えた。

錠前
座敷楼の錠はあのぐらい簡単だとゲゲ郎はずしていた。おそらくは髪の毛を使ったのだと思われる。しかし、最後の戦闘シーンの前では、水木が斧で、錠を壊していたところが対になっているようにも見えた。

風呂
Twitterでゲゲ郎が下履きを履いていないのではないかと言う解釈を見つけたときには驚いた。確かに着流しと帯と手につけている組紐しか置いていなかったように見えた。何となくふんどしだろうなと思ってたけど、見えないから何を履いてるか履いていないかは想像にお任せなんだろなと。

ここでの「はよう行け」が最後に水木を見送る時の「はよう行け」とリンクしてるとこが泣かせる。

沙代さんお召し替え(1回目)
矢羽の着物に菊の帯の華やかな装いは沙代さんにとって1番のお気に入りなんじゃないかと。それを着て水木の前に現れて東京の話が聞きたいとねだる。一生懸命恋してる様子が、いじらしい。

葉巻とタバコ
葉巻は水木が憧れた富の象徴であった。しかし、水木の体にはそれは合わなかった。タバコはゲゲ郎と分かち合うものであったっていう流れが泣ける。

禁域
なんか結界やら沢山の妖怪出てきてやばいけど走るゲゲ郎がカッコいい……。何走りっていうのか、腕を振らないで斜め後ろにしてるの。忍者みたいなやつ。手が見えなくて袖が風でたなびいてカッコいい……。荒事は好かんと言いつつムカデみたいなのぶん投げるとこ好き。あとめちゃくちゃに跳躍するとこ最高。その後明らかに速すぎる小舟に笑う。漕ぎ手がひっくり返ってるのに。何ごとかと思ったらここにも妖怪が笑。

相棒
ゲゲ郎と水木がタッグを組むところ、初回に見たときはゲゲ郎のメリットがあるか?ってところが気になった。この時点ではそこの理由がちょっと弱くないか?と。少年時代のネズミ男(つまりネズミ小僧??)の方が色々動けそうだし。全く信用はならないけど。
ゲゲ郎としては何としても妻を見つけたいわけで、使えるものなら親でも(居ないけど)使えって感じだけど、この時点の水木がそんなにゲゲ郎にとって有用な人間なのかって思ってしまった。
でも2度目に見た時には、禁域に入った水木の気概を買ったのではと思えた。

ゲゲ郎が「儂の妻と不死の妙薬」を探すと言った時、既にこの2つが繋がっているということに気がついていたのだと思って見ると、胸が締め付けられる。

沙代の恋
またお召し替えしてる水色ラインのワンピースかわいい。バルコニー、これから破壊されるんだなってなる。
  
天狗の酒
酒を飲んでお互い本音を話し合った。2人が家と下手シーンが良かった。水木が釣瓶火から火をもらってつけたタバコをゲゲ郎に渡したのは、当初は警戒し合っていた2人の心が通じ合ったことをうまく表現していると感じた。
ここの導入、水木に説教するとみせかけてからの惚けへの流れが最高。良い話してたのに、実は惚けたかっただけかよ!ってなる。とても良い。
ゲゲ郎の表情が柔らかくてほっぺた染まってるのかわいい。

妻の思い出
回想シーンの着流しは裾が綺麗なの泣ける。妻を探し求めた10年でほつれてボロボロになってしまったのかと、考えると辛い。岩子さんのイヤリングさくらんぼぽくて可愛い。目玉の親父の好物がさくらんぼだというのを知って思い出の味じゃんクリームソーダ……って泣いてる。

孝三
この人に時の字が使われていないのが気になった。時ばっかりだと分かりにくくはなるけど。時は長男が継ぐ字なのかな。
岩子さん(今作では出てこないけど目玉の親父の奥さんの名前)を助けようとしてくれてたのに気の毒な人。CV中井和哉さんだってパンフレット読むまで分からなかった。


糸目の長田の目が開きました〜わっるい顔してました〜。

土下座ゲゲ郎
乙米の「あの女と番わせましょう!」と「時弥に沙代を娶らせて」の言葉の選び方で幽霊族は見下して動物扱いしてることと龍賀家の主語は常に当主なんだなぁってことを伝えてくるのエグい。

禁域の地下
水木が村に来るときに乗っていた夜行列車、その中の女の子が持っていた日本人形それが死人が並べられた部屋の中に残っていた。ゴミ袋と一緒に。
沙代が着ていた大きな矢羽柄の着物に菊の帯、その着物が、人形の着物と似ているように思えた。これは沙代が人形のように扱われているということの象徴でもあると感じた。
乙米が沙代と、水木に対してずいぶん仲良くなったものだわねと言うセリフの嫌味たらしい人を見下した言い方は、とっても悪役らしくて憎らしくて素晴らしかった。声優さん凄い。

沙代様闇堕ちの件で流れた劇伴が携帯ゲームのひとりぼっち惑星を思い出す悲しいメロディで良かった。また聴きたい。

血桜
時貞翁が時弥はこのために作った子だと言っていたと言う事は、トキヤの父親は時貞翁であったということが考えられるなってパンフ見たら時弥: 庚子の息子と記載されていて「長田夫妻の子」とか「長田と庚子の息子」ではないんだと察し。

水木が時貞翁の持っていた骸骨を狙って破壊したのは、その前に長田が骸骨を破壊された際に術のコントロールがきかなくなったと事から学習していたということがわかった。また、作用はそういった媒体がなくとも、狂骨を使役できるだけの力があるということがわかった。
1つ疑問なのはさよの魂は狂骨にはならなかったのかと言うこと。燃え尽きちゃったのか、裏鬼道の術で消滅させられてしまったのか。

狂骨に追い詰められて絶対絶命のゲゲ郎を、お腹の中の鬼太郎の泣き声で覚醒(生きてた??)した幽霊族の同胞達の髪の毛が救うシーンは胸熱。ここで流れるゲゲゲの劇伴。最高オブ最高。

忘却
このちゃんちゃんこを着ていれば狂骨に襲われても記憶を失う事は無いってゲゲ郎に言われたのにすぐに岩子さんにそのちゃんちゃんこを着せた水木なんなの男前すぎるだろ。自分の記憶より岩子さんの記憶の方が大切だと判断したんでしょ?なにこの善性。

どうでも良いけど裏鬼道って言葉が裏と鬼で両方とも陰みたいな意味だと捉えると二重表現に見えてしまいちょっとだけ面白く感じてしまう。

現代の廃村に戻って
時ちゃんの狂骨な、泣くしかない。
映画が終わって席を立つ人の口からも、時ちゃんの心は悲しかったときちゃんは何も悪くないのにねと言う声が聞かれて、本当にそれな‼︎って叫びたかった。

この話を記者の人に親父さん言っていいの?ってちょっと思った。大事な思い出なのにって。70年も経ったらそろそろ良いかなってなるのかな。
でも記者さんと監督さんのビジュが似てるって考察を見て、この映画は目玉の親父さんから聞いた話をお伝えしてるんですよっていう構造をつくるとこが憎いな〜って唸った。
シャーロックホームズの物語の作者がワトソンってことになってるみたいやなつ嫌いな人居ないよね?(偏見)

墓から産まれた赤ん坊
最後、墓場鬼太郎のダイジェストが入るの良かった。包帯男とお岩さんみたいな女の子供である鬼太郎っていう設定を無視した映画なのかなと思って見てたのでここに繋げられるのかっていう手腕に脱帽した。ありがとうございます。

総評
脚本の緻密さが群を抜いていると舌を巻いた作品でした。何度でも観たい。2回目観たけどホワイトタピオカミルクティー(岩子さんの好物がカエルの卵だからなぞらえてみた。悪趣味だなと自分でも思う)の存在を忘れるくらい没入してた。
なしの木

なしの木