ゆずっきーに

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎のゆずっきーにのネタバレレビュー・内容・結末

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

薦めてくれた知り合いと一緒に鑑賞。
6期・墓場ともに未鑑賞。

たとえば高級店のディナーでは一人数万円を支払うこともあるのに、映画はどんな作品に当たろうと一律同じ値段。これはビジネスの形態として適正なんだろうか。観たい人がお金と時間をかけて何度でも観る、そういう作品は間違いなくあるし、その意味では本作も2000円では余りにも安い。作品ごとに自由な値段設定をできるようにはならないのかな〜〜〜なんてことを鑑賞後にぼんやり考えていた。
総員も横溝も何一つ予習しないままに凸ったが、問答無用で感動させられた。感動というのもおかしいか。感動よりは動揺や囚われを受け手に喚起する作品、アクの強い世界観に鑑賞者を引きずり込んで離さない。2回も3回も劇場に通いたいと思える作品って実はそんなに巡り会えない。ナイーブな内向性と不定の激情と、より善い未来を志向する良識とが凝り集まって結晶になったような映画だった。端的に言って好み。

根底のテーマや時代設定が奇しくも『ゴジラ-1.0』と重なるため作品としても所々通底する雰囲気は醸しつつ、因習村で繰り返される怪異&悪行というサーキュレーションを組み込むことやゲゲ郎父さん周りの異族たちの悲哀・情念を丹念に描くことにより、『ゲゲゲの鬼太郎』シリーズ記念碑としての味がとても良く出てきていたように思う。ゴジマイは作品の先に社会を見据え、信念を持って作り手の戦争史観を観客らに語りかけてくるような力強さがあったが、翻って本作はもっとドロドログチャグチャ、内向的な、それでいて近代日本史のよりダークでアンダーグラウンドな部分(国家隆盛と覚〇剤!!)に手を突っ込む容赦のなさが光っていた。もっとも自分は原作者水木さんと戦争の関係に昏いので、この辺りは作品に反戦の声を見出しつつも言及はせめて総員~読んでからにしようかな、と思う次第。
安寧を求める(野)心が解体されることへの恐怖を愛をもって乗り越える、というのが本作に一貫するテーマにも感じられた。ゲゲ郎には妻子と先祖たちが寄り添っていて。じゃあサラリーマン水木にとっての愛は?って話を沙代とのボーイミーツガールに落とし込まない抑制された脚本がまた渋い。"一途な悲恋・泣ける路線"でも行けただろうし、その路線の方が感動して点数も高く付きそうなのだが、そこをグッと抑えてくるところがカッコよかった。水木の愛を恋愛の類いで締めなったことにより、むしろ水木という一人の人格の説得力が段違いに上がってくる。沙代は水木のファムファタル足り得なかったけれど、鬼太郎を地に打ち付けなかった水木の選択が、下山する水木の心をちゃんちゃんこに代わり護ってくれた誰かの存在が、彼の今後の人生が果てしなく孤独な物にはならないという救いを見せてくれている。レベル高い脚本だ…(「ツケは払わなきゃな」がネットじゃバズってるけど個人的にはその前の「お前つまんないな」に吹っ切れた心情が表れているようで好き)。

練られた脚本、映像美も素晴らしい。対裏鬼道衆戦の、あの輪郭が流線に溶けて徐々に曖昧になっていくような表現手法の可能性には只々驚嘆させられるばかりだった。調べたらほとんど一人の方が作画担当されてるんですね(東アニの太田晃博氏。本当に凄まじいです)。長編映画にも関わらずアニメーションに無駄なシーンが1箇所も無かったように思う。劇場で没入して観れて良かった。

この映画の魅力を文字で語りきれない感じが何とも歯がゆいが、絞り出すと、アンビバレントな人間にしろ人外にしろ彼らをアンビバレントなまま受容する、それはそれとして業のツケは支払わなければならぬ、「自分よりも大切なもの」この辺りが自分の内にはズシンときている。本作を触媒として今一度自らのこれまでの立ち居振る舞いを深堀っていかねばなと思いました。。
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