みち

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎のみちのネタバレレビュー・内容・結末

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

冒頭はあまりに横溝正史過ぎてもう少し捻っても良いのでは、と思ったが、おかげで話は分かりやすかった。不穏さ、怪しさの演出も工夫があって、期待値が高まった。ただ、それぞれの人間に異様な死に方をさせるなら、そこに何らかの理屈があっては欲しかった。

妖怪という言葉がはっきり登場してからは戦闘シーンで魅せ始めたが、楽しさはあったものの、明らかに少年少女向けではないこの作品で誰向けにこの戦闘シーンはあるのか、見せ場を作っておこう、の精神が露骨な感じもしてしまった。

悪霊が誰を依代に人々を殺していったのかは早くに見当がついたが、しかしその後の彼女の描かれ方が残念だった。(一人目はまあわかるとして)それぞれの殺害動機が安っぽく感じられたし、悍ましい境遇があったとはいえ、人物があまりに単純かつ直情的に描かれているうえ、物語上の妨げになるものたちをほとんど片付けて死んでいく都合の良いキャラクターに成り下がっているように感じられる展開で、これでは(登場する人間の中で唯一善人に近かった)彼女も報われないだろう。水木が彼女を失った直後に次の目標に走りだす流れにも心が追いつかない。

人々を「不死身」にする薬の正体はありがちだったし、すべての元凶である翁の人間があまりに薄っぺらい。これだけ呪われた重たいムードを作り出してきたのに、ラスボスのコメディ感はなんなのか。

水木が(戦争という事情は描かれたとしても)あまり好きにはなれない人物であるのに対して、ゲゲ郎はどこまでも善で、自己犠牲の塊だ。子どもの未来のために、は捻りがないけど、相棒の生きる未来が見たい、は良かったと思う。ただし、嘘と自分都合の塊であった水木のどこにそこまで期待したのか、どうせなら自分の妻のように、その人間ならではの「弱さ」を愛したから、だとか、納得できる理屈が欲しかった。

閉口してしまったのは終盤、現代に現れた最後の狂骨。ゲゲ郎と、翁の犠牲になった孫・時弥の会話。あの可哀想な男の子のその口から言わせる「忘れないで」は、あまりに説教くさい。

そしてここまで観てきて、果たして現代パートは必要なのか?と感じてしまった。ドラマがほとんどないし、鬼太郎とねこ娘を出して「これは鬼太郎と目玉おやじの話だよ」と伝えるためだけの枠組みなのか。

エンドロールの描き方、ラストへの繋がりはもう一度心が引きつけられたけど、原作はどうだっけ。

というわけで、演出は悪くないのに、人物の描き方でどんどん自分のなかでは厳しくなっていって、無いものねだりの気持ちが募った。
みち

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