夏藤涼太

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎の夏藤涼太のレビュー・感想・評価

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
4.2
やっと見れた。

……凄いものを見た。
前評判は概ね聞いていたから、予想はしていたが…予想を超える酷さでドン引きした(褒め言葉)。

つらい、あまりにもつらい……でもこれが現実なのよね。
酷い村、酷い時代と見せかけて、酷い世界、酷い現代と展開しながら、それでも後の世代に希望を見出さざるを得ないというオチ、まぁよくできたその構造は、水木しげるのテーマを完璧に描ききっていて、まぁ原作愛というか、水木愛にあふれていて感動した。
まさか、『総員玉砕せよ!』のアニメが、それも劇場で見られるとは思わなんだ。
まぁ回想シーンには、鬼太郎水木じゃない本物の水木みたいなのもいたけど…

ただこれ、墓場鬼太郎には繋がらないというか……繋がってほしくないよ!?
墓場の水木って、バッドエンド迎えてたよね?
アニメ6期の方にも繋がる作りらしいから、よくわからんけど…(アニメは見てない)。

しかし今回一番面白かったのは、映画本編ではなく、同時期に公開された #ゴジラマイナスワン との違いかな。

ゴジラマイナスワンは、確かに怪獣映画としては面白かった。だけど不用意に戦争というテーマを盛り込んだ映画としては、はっきり言って、「(日本人の戦争に対する意識は)まだここで止まってるのか」と呆れてしまったことは否めない。つまり、日本国民の(海外と国による)被害者意識である。

その点で、鬼太郎誕生には、ゴジラマイナスワンに足りていなかった「本当の日本の戦争」がこれでもかと詰めこまれていて最高だった。しかも戦争で終わらない。
「血液製剤М」や「魂の乗っ取り」といった怪異要素を使って、現実の問題やテーマを戯画化して表現するあたりは、まさにアニメならではの魅力に溢れていて…まぁ、びっくりするほどよくできている。
間違いなく、ワンセットで見るべき映画。

しかしゴジラだけでなく #君たちはどう生きるか や #ほかげ #窓ぎわのトットちゃん といい、2023年は第二次世界大戦をテーマにした映画が集中していたのが面白いというか、恐ろしいというか……
どれも製作の開始はずっと前からなのに、示し合わせたように、戦争の災禍が吹き荒れる2023年に上映されるとは。しかも、全てに"子ども"が大きく関わっている。
映画は時代の写し鏡とは言うが、やはりシンクロニシティはあるのだろうか。

そんなわけで、鬼太郎誕生はテーマ性や水木しげる・鬼太郎原作スピンオフとしては素晴らしかったのだが……批判点がないかというとそうでもなく、「映画」としては、イマイチ盛り上がりきれない点はあった。
全体的に展開が早すぎて余韻がなく、編集もブツ切り感があるし、明らかに掘り下げが足りていない箇所が見受けられたからだ。

…のだが、監督のインタビューを読んで納得。元々は120分のシナリオを、東映側から100分以内、最悪でも105分を超えるなと言われて、104分59秒にまとめ直したようで。
うーむ、ぜひともディレクターズカット版も作ってほしいものである。

あと、シナリオや声優の影に隠れてあまり話題になっていない感があるけれど…川井憲次の劇伴がめっちゃよかったです。
夏藤涼太

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