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⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎のパングロスのレビュー・感想・評価

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
3.8
観る予定はなかったが、あまりの評判にようやく鑑賞。

正直、何段階かで心底驚かされた。

はじめは、所詮は子ども向けアニメだろうとタカを括っていたら、子どもには一聴で理解できないだろうセリフも多く、しっかり大人向け仕様だと驚いた(あとからPG12だったと知る)。

そして、最後の最後に‥‥



【以下ネタバレ注意⚠️】




序盤は、『犬神家』を想起させる旧家大家族を舞台に起こる殺人事件ミステリとして始まる。

最近作で言えば、ちょうど『ミステリと言う勿れ』劇場版と酷似。
「これだったら、実写で撮ったら良いのに」
と思いながら観ていた。

ところが、さすがに中盤から、妖怪ものの本領を発揮し始め、サイキックバトルのシーンが見せ場になってくる。

「殺し」のシーンは、かなり残虐なものもあり、これだけでR指定は避けられない。

しかし、
「えっ、ここまで?」
と二度目に驚かされたのが、
水木によって明かされる、未成年のヒロイン龍賀沙代が、死んだはずの祖父龍賀時貞に貞操を捧げていたという秘密。
少し前に、沙代の母乙女によって、沙代は龍賀家の新当主となる幼い時弥と結ばれ、その子をなさなければならないと聞いて、水木が嘔吐するシーンが伏線となっていたのだ。

いくら何でも、これは子どもに聞かせられないでしょ。
R18でもいいぐらいのエグい話だ。

この、時貞と沙代というラスボス同士が対峙する禁断の島の穴ぐらに至る、千本鳥居を仰ぎみながら疾走するシーンと、幽霊族の生き血を吸って爛漫たる花を満開させている枝垂れ桜の描写は、本作アニメシーンの白眉。

水木の勤務先が帝国血液銀行で、龍賀一族が幽霊族(戦争犠牲者のメタファー)の生き血から精製するのが血液製剤Mだという設定は、薬害エイズ事件を引き起こしたミドリ十字が元七三一部隊のメンバーによって設立されたことを踏まえているのだろう。
この点でも、かなり戦争責任を明確に追及した作品だと言えそうだ。

この桜の下で、ようやく出会えたゲゲ郎の妻が身籠っている、というあたりで、
なるほど「鬼太郎誕生」というタイトルが、これで回収されるのかと気がついた。

ただ、これまでのゲゲ郎のルックや物語が、あまりにも原作の「墓場の鬼太郎」と違うので、はたしてどうなるのか、と思ったことも事実。

そんな思いをよそに、真のラスボス沙代の攻撃をきっかけに、よみがえった数多の狂骨のビッグバンにより哭倉村は滅び、いつの間にか時制はアバンの現代に戻り、お馴染みの鬼太郎、目玉の親父、猫娘が登場。

正直キョトンとしていると、
エンドロールとなり、手書き風の線画で、哭倉村を脱出した水木が救出したゲゲ郎妻の死と埋葬、ミイラ化したゲゲ郎が描かれ、よく知る「墓場の鬼太郎」誕生シーンにつなげる手腕に三度目の驚き。

そこに流れる音楽が、いつもの鬼太郎の主題歌を、哀切に満ちた抒情的なインストにアレンジした曲(川井憲次による)で、なんなら、この音楽を聴いていちばん感動した。

この音楽に見られる「原曲を生かしながら全く新しい生命を与える」という「志の高さ」が、本作そのもののそれを象徴しているように思えた。

《参考になるレビュー》
【前編】宇多丸『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』を語る!【映画評書き起こし 2023. 11.30放送】 ※後編あり
アフター6ジャンクション2 2023.12.6
www.tbsradio.jp/articles/77727/

薬害エイズ事件
www.habatakifukushi.jp/record/aids/

薬害エイズ裁判と731部隊
www.hokeni.org/docs/2017040500122/ふ
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