多次元世界の住人

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎の多次元世界の住人のネタバレレビュー・内容・結末

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

語り部の不在。民族の記憶。人間の残酷。それでもなお、歩き教化する。
すべては見ようとしなければ見えない。

想像以上に面白かったです。物語が単なるパラレルな話になっておらず、しっかりと墓場の鬼太郎のはじめと同じく接続されていました(最後のEDには驚きました)。

話は戦後。水木しげるの記憶が最も強い戦時中の回想はゲゲゲの誕生と共鳴していました。昭和根性による我欲でのしあがろうとする主人公は昭和を知らない自分に戦争経験と生を思わせます。三島由紀夫の話を思うのです。

その舞台は旧家。山奥の農村。忘れられた日本の記憶でしょうか。神社や祠の意味や風習は意味を消し、形を消していくのでした。
思えば長男を家主に、次男婿をそのまま社長にする意図も、彼の優秀を見据えた上での長男へ乗り移りための策略だったのでしょうか。

因果応報という言葉に相応しい最後を遂げる旧家。だが無罪の子供までもが巻き込まれることにこの作品の制作陣の強い意志を感じとります。
ゲゲ郎が未来を子供のためを思って見る姿、無垢なる子供を救わなければ、恨まれない存在となるために責務を果たせねばと思いました。日本の教育含めです。

娘が大人に悪いようにされていた様子は残酷心をよく思わせます。供犠は日本にもあったのでしょう。そして権力者によるものはますます。
(彼女はなぜ妖怪に取り憑かれたのでしたっけ?)

陰陽道を自身のために使う。日本の道が心を鍛えるのは、心以上に、その技術が強力であることを示していたのでしょう。堕落は簡単だと。人間の技術の利用も道でないといけない。

最後に出た伝えるという行為。日本における語り部の不在を表しているのでしょう。災害伝承もそうでしょう。
幽霊族や妖怪を人間が崩しているというのは自然を壊す人間のメタファーでもあるように思えます。

見ようとしなければ見えない妖怪。私も近代科学に随分と侵されてしまったのかもしれません。童心を思い出しました。モノの心を聞こうと思います。

やはり水木しげるはすごい。彼の世界を継承し広げなくては行けないと強く思いました。